前回に引き続き、買い手候補の探し方を見ていきましょう。今回は、候補を絞り込む「3つの観点」について説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

買収提案を持ち込む相手は「三つの観点」から絞り込む

買い手候補を思いつくままリスト・アップできれば、実際に買収提案を持ち込む相手を以下の三つの観点から絞り込む。

 

①買い手を国内企業に限定するか、外国企業まで広げるか

②事業会社に限定するか、投資ファンドも含めるか

③類似業種に絞るか、異業種にも対象を広げるか

 

通常は、自社の事業内容を熟知している得意先や仕入先など既存の取引先が買い手候補として最初に挙げられてくるはずである。複数の買い手候補との交渉を行ったとしても、結果的に既存の取引先が買い手として最終決定するケースが一番多い。しかし、同じ業界内の取引先に親族外承継(M&A)の提案を行うと、売りに出ている事実が広まり、信用不安を招く危険性が伴う。

 

また、十分な買い手候補がリスト・アップできた場合であっても、以下のような取引実現可能性の観点から、買収提案を持ち込む相手を絞り込む。

 

①買収するための資金力があるか

②自社と統合することによってシナジー効果が発揮されるか

③買収に対して積極的な経営戦略を掲げているか

④過去にM&Aを経験しているか

⑤従業員の雇用を維持してもらえるかどうか、従業員に納得してもらえる会社かどうか

 

これらの選定基準を満たすことのできる買い手候補であれば、取引の実現可能性は高い。

買い手探しは部下に任せてはいけない

オーナー経営者である自分は忙しいので、頼りになる部下(役員)に買い手探しを任したいがどうかという相談を受けることがある。

 

もちろん、買い手候補を探す際には、経営陣や営業部長が持っている業界の情報を採り入れることは重要である。しかし、親族外承継(M&A)のための買い手候補探しは、基本的にオーナー経営者が自ら行い、サラリーマンである部下に任せてはいけない。

 

なぜなら、サラリーマン役員は、取引の当事者ではないので、オーナーが株式を売却することよりも、自分の雇用の確保や、報酬の維持を考えるからである。

 

例えば、高い価格で株式を買い取ってくれる買い手は、オーナーにとっては好ましいが、その代償として人件費を減らすために役員を解雇するならば最悪である。サラリーマン役員は、自己の利益を図るための買い手候補探しを行うため、親族外承継(M&A)における買い手探しを任せるべきではないのである。

「売却中止金額」の設定を忘れずに

意思決定の段階では、正式な価値評価は必要なく、大体の株式価値を概算で把握した上で、売却可能性を検討するだけでよい。

 

そして、親族外承継(M&A)を決定し、その準備する期間においては、買い手候補に対する買収提案の最に提示する事業計画を作成する。その際、対象会社の想定売却価格を算定し、取引を決定する際の希望価格、すなわち「これ以下の価格であれば売却することを中止する金額」を設定することが必要である。

 

売却プロセスにおいて、最も重要な要素は売却価格である。買い手候補が提示する買収価格の提示を受けた際、売り手としてその価格が妥当であるのかを判断することが求められる。そのときの判断材料として、売り手が自ら評価した公正価値や、価値評価の方法を頭の中に描いておく必要がある。

 

親族外承継(M&A)は、その事業から生み出される将来キャッシュ・フローを一時金として先取りすることであるから、将来キャッシュ・フローの割引現在価値よりも低い価格で親族外承継(M&A)することは、合理的ではない。それゆえ、希望する売却価格を決めずに、買い手候補と交渉を進めてはならない。

 

希望売却価格の前提となる事業計画は、あくまでも現在の売り手の傘下で実現することができなかった会社経営を反映したものであり、そこから評価される希望売却価格は売却することで実現するものである。思った以上に低い価格での売却しかできなくても、それが自社の実態なのであれば、その現実を受け入れるしかない。

 

親族外承継(M&A)によって、オーナーが自ら会社経営を続けるよりも多額の一時金を獲得できるのであれば、それは今すぐ売却するという意思決定を行うべきということになる。

 

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