「借り上げ保証」の活用で事業リスクへの不安を解消
土地活用を図ろうとする土地所有者の要望や悩みは、建物完成後にまで及びます。
一つはやはり、本当に入居者を確保できるのだろうかという不安です。建てれば埋まるという時代ではありませんから、確かにどんな賃貸住宅でも経営は安泰とはいかないのは事実でしょう。商品性の良し悪しが、入居者確保に大きく影響します。
しかし、そうした現実を直視するような見方はこれから事業リスクに直面しようとする土地所有者にはなかなかできません。建てたものの経営がうまくいっていない賃貸住宅の話を聞けば、すべてそうだと思い込んでしまいます。
そうなると、事業計画上でいくら収益性があることを説いても、それを否定しにかかるのです。とりわけ借り入れの大きな土地所有者は、長期の安定を望みます。事業リスクがそれだけ大きいからでしょう。無理もありません。
したがって、そうした土地所有者にはサブリースを持ち掛けます。完成した賃貸住宅をいったん借り上げ、そのうえで入居者に転貸する手法です。
土地所有者にとってみれば、借り手を確実に確保できるので安心です。家賃収入の見込みが将来にわたって立つので、事業リスクへの不安は解消されます。
ただし、何でもかんでも、こうした借り上げ保証を頼りにするのは考えものです。一つには、市場で得られるはずの家賃より低い家賃しか得られないということを意識すべきです。月12万円の家賃を取れる賃貸住宅であれば、借り上げ家賃は当然それより10〜15%くらいは低くなる可能性があります。
もう一つは、借り上げ家賃の見直し条項に注意する必要があります。その内容によっては、家賃収入が見込み通り確保できないリスクが潜んでいるからです。
法人に土地を貸し付け、法人に運営してもらう手も
最寄り駅から歩いて15分以上掛かるような郊外の土地は、立地条件の悪さから、商品性の工夫が欠かせません。そこではまた、別の不安が生じたりもします。
このような土地では、最寄り駅からの近さが求められる賃貸住宅には不向きです。一方で、一定の規模さえあれば、高齢者福祉関係の施設用地としてニーズがあったりします。
その場合には、土地所有者がそうした施設を運営する法人に土地を貸し付け、そこで法人が施設を建設し運営するというのも一般的です。自分で建物を建てて、それをユーザーに賃貸するという方法です。土地所有者は地主として地代収入を得るわけです。
法人側としても土地を購入すると初期投資が大きく、事業性に欠けます。土地を借りられれば、初期投資を抑えることができるので、都合がいいのです。
ただしこの場合、地主は「土地を返してもらえず、そのまま乗っ取られてしまうのではないか」という不安に襲われることがあります。将来、土地を必ず返してもらえるように、何らかの保全措置が欲しいというのです。確かな借り手が付いたら付いたで、別の不安が頭をもたげてくるというわけです。
こうした場合には、事業の仕組みにひと手間加えることがあります。土地を借りて建物を建てる法人を新しく立ち上げ、地主にもその経営に参画してもらうのもその一つです。株式会社であれば、株主として加わってもらうということです。
建物はその法人から高齢者福祉関係の施設を運営する法人に賃貸します。建物を所有する借地人側は地主の意向をその立場上無視できないので、地主は安心を得られるという仕組みです。あるいは期間を区切って賃貸する定期借地方式も考えられます。
建築設計者というと、建物を建てる段階だけしか関与しないように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。筆者たち建築設計者は建物完成後にまで目を向け、その段階で土地所有者が抱える要望や悩みにもできるだけ応えていくことを心掛けているのです。