前回は、敷地と道路が接している長さが短い土地の活用方法について説明しました。今回は、建物の高さを斜めに制限する「斜線制限」の適用を回避する方法を見ていきます。

斜線制限を緩和させるには特別な条件が必要だが・・・

「斜線制限」とは、北側の隣地や前面の道路などとの関係で建物の高さを斜めに制限するものです。大型マンションでよく、最上部が斜めにカットされたような形のものを見掛けますが、あれがまさに、斜線制限の適用を受けた結果なのです。高さを一定程度に抑えることで、北側の隣地や前面の道路で採光・通風を確保し、周辺一帯の住環境を衛生面で良好に保とうという発想なのでしょう。

 

この斜線制限を受けると、敷地条件によっては利用できるはずの容積率をまるまる使い切れない場合が生じます。共同住宅であれば、最上部を斜めにカットされることで、使い勝手の悪い居室が生まれる場合も生じます。意匠上の理由から斜めにカットしているわけではないので、見た目にも好ましくありません。

 

斜線制限のうち道路斜線と呼ばれる、前面道路との関係で定まる制限や、北側斜線と呼ばれる、北側隣地との関係で定まる制限に関しては、緩和規定も置かれています。

 

道路斜線は、敷地境界から建物を後退させて建てるようにすると、それに応じて制限の掛かり方が緩くなります。より高い建物を建てられるようになるのです。かたや北側斜線は、北側の隣地に当たる部分が水路や線路敷きだったり、敷地より一定以上高くなっていたりすると、制限の掛かり方が緩くなります。

 

ただ、道路斜線にしても北側斜線にしても、敷地内で建物を後退させることができるほど敷地に余裕があったり、北側の隣地に当たる部分がたまたま水路だったりするなど、特別な条件を備えていないといけません。

「天空率」の指標を達成すれば斜線制限は適用されない

ところが今では、そうした条件の定められた緩和規定ではなく、求められる環境性能の確保という観点からも緩和規定が置かれるようになってきました。その環境性能の指標が、天空率なのです。

 

狙いは、斜線制限と変わりません。北側の隣地や前面の道路での採光・通風を確保し、周辺一帯の住環境を良好に保つという趣旨です。ただ、その狙いを達成するやり方が、斜線制限のように建物高さに一定の枠をはめるのではなく、天空率という指標さえ満足すればいいという、もっと緩やかで自由度の高いものなのです。

 

どういうことなのかを簡単に説明しましょう。天空率とはその名の通り、ある位置から建物方向を見上げたときに見える天空の割合です。

 

ビル街で道路に立って天空を見上げてみると、イメージしやすいでしょうか。もちろん、空は見えるでしょうが、ビル街であれば、そうそう広い空でもないはずです。天空率は低いのです。反対に、高層ビルのない開放的な街中に立つと、空は大きく広く感じます。天空率は高いのです。このように空が大きく広く見えるほど、住環境は衛生面で良好といえます。

 

この天空率を通じて、斜線制限に基づく場合と同等の住環境をつくり出せていることが確認できれば、斜線制限の適用は受けずに済みます。つまり、仮に斜線制限を受けていると仮定し、その場合の天空率と同等の天空率を確保できるように建物を設計するのです。それによって、斜線制限という建物の形態を縛るルールから解放され、もっと自由に設計することができるようになります。

 

斜線制限の適用を受けると容積率をまるまる使い切れないような敷地では、つくりうる限りの床を確保できるようになるかもしれません。使い勝手の悪い居室が生まれてしまうのを、防ぐこともできるでしょう。何より、設計の自由度が上がれば、それだけ価値の高い建物をつくり出しやすくなるはずです。

 

この天空率のような規定を「性能規定」と呼びます。採光・通風を確保し衛生面で良好な住環境を確保するという目標の実現を念頭に置き、ただそれさえ実現できればその手法は問わないという考え方です。

 

これに対して斜線制限は「仕様規定」と呼ばれます。実現する目標は性能規定と共通ですが、実現に向けた手法をここでは仕様として細かく定めます。仕様規定のほうが誰でも従いやすいといえますが、どうしてもそれを前提に設計を進めざるを得ないので、設計の自由度には欠けるのが難点です。

 

天空率に限らず、性能規定化というのは、建築法規の今の大きなトレンドです。満足すべき目標さえ達成できれば、行政にとやかく言われることなく設計したいというのは、建築設計者の本音でしょうから、歓迎すべき流れです。

 

建築主にとっても、性能目標の達成という大きな枠組みの中で設計を進めてもらえるので、意匠やコストなど事業に深く関わる点で工夫を凝らしてもらえる余地が広がります。つまり平たく言えば、より価値の高い建物をより安く建てることができるようになる可能性が高まるのです。

 

ただし、建築設計者なら誰でも性能規定化に対応できているとは必ずしも言えないのが実情です。性能規定の時代は、仕様規定の時代以上に設計力の差が問われることになるでしょう。そのため、建築設計を「誰に頼むか」という点が、今後はますます重要性を帯びてきます。土地活用ではそこで展開する賃貸事業の成否さえ決めかねません。重大な問題になります。

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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