「長屋建て」なら十分な事業性が見込める!?
前回に引き続き、「旗ざお状の土地」の活用方法について見ていきましょう。
あまりなじみはないかもしれませんが、共同住宅でも戸建て住宅でもない、住宅の形式があります。長屋建てと呼ばれるものです。
長屋というと、落語の世界を思い浮かべる方もいるかもしれません。複数の店子が軒を接しながら暮らす住居です。路地に面して出入り口が並び、隣家との間を隔てる壁は薄いかもしれませんが、一応独立した住戸です。
長屋とはこのように、共同部分を持たない独立した住戸が縦に積み重なるか横に並ぶ形式です。このような形式で建設する住宅を、長屋建てと呼びます。縦に積み重ねる重層長屋というタイプでは、地上に玄関が2つあり、一つは1階住戸に、もう一つは専用階段で2階住戸につながっています。そうした2戸で構成する重層長屋が横に連なるものも見られます。
一般的な認識からすれば、共同で住むという点で共同住宅とそう変わらないように思えます。しかし、建築法規の世界では、共同住宅はエントランスホールや階段・エレベーター、廊下を共用するものを指します。長屋のように、外から各住戸に直接出入りすることはできません。同じように共同で住む住宅ではありますが、共同使用する部分を共用スペースに持たない点で長屋は共同住宅と異なるのです。
そのため、旗ざお状の土地であっても、この長屋建てなら戸建て住宅と同じように建設可能です。間口の狭い1・2階のメゾネットタイプにすれば、敷地の広さに応じて、戸数をプラスする形で増やすこともできます。住宅メーカーのアパート商品ラインアップの中にも、こうした長屋建てのものが含まれています。
長屋建てなら、一つの敷地に複数の住戸を確保できます。立地条件にもよりけりですが、事業性は十分に見込めるでしょう。賃借人にとっても、戸建て感覚を持った手軽な広さの住戸を借りることができます。地面の近くで暮らしたいから、マンションは敬遠したい、そうかと言って、戸建て形式の賃貸住宅は広すぎて家賃が高い・・・。そんな悩みを持つファミリー層にはもってこいではないでしょうか。市場性も十分に見込めそうです。
敷地から「旗」の部分をあえて外すという手も
ただ一方で、斜面地と同じように度を超すと、近隣トラブルの火種になりかねません。避難安全が確保されていないので災害時には混乱が予想されるとの理由で、大規模な長屋が一部で周囲から問題視されるようになったのです。
東京都世田谷区ではそうした声を受け、建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例を改正し、2013年1月以降、旗ざお状の敷地に建てられる一定規模以上の長屋にこの条例を適用しています。
具体的には、敷地面積300㎡以上の敷地に住戸数4以上の長屋を建設する場合には、隣地からの壁面の後退距離を指定建蔽率と高さに応じて0.75mまたは1mに、住戸専有面積を居住水準確保の観点から25㎡以上にすることが義務付けられるようになったのです。こうした都区部での規制に向けた行政動向は、今後とも気に留めておきたいものです。
同時に、長屋建て以外の選択肢を検討することも重要です。旗ざお状の土地の「旗」の部分に建物を建てることをあきらめ、「さお」の部分に共同住宅を建てる方法を探ってみるのです。
建築基準条例で共同住宅の建設が禁じられるのは、敷地が旗ざお状だからです。裏を返せば、敷地が旗ざお状でなければ、その縛りは受けません。つまり、敷地から「旗」の部分をあえて外すのです。「損して得取る」の発想です。
もちろん、シミュレーションは欠かせません。旗ざお状敷地の長屋建てと敷地の「さお」部分だけの共同住宅と、どちらがより床面積を確保できるのか、つまり収益性は高いのかを、あらかじめ試算しておくことが不可欠です。条件はさまざまですから、一概にどちらが得とはいえないはずです。
長屋建ての建築が制限される方向にあるからといって、旗ざお状の土地の活用をあきらめる必要はありません。一度、この「損して得取る」の発想を検討してみてはいかがでしょうか。