通常の個人事業を法人化した場合の貸借対照表の例
前回の続きです。
〔3〕貸借対照表上の処理
通常の個人事業が法人化した時、個人開業時代の資産と負債を引き継がない場合を除き、一般的には下記図表1のような処理をします。
[図表1]
資産「1,500(売掛金1,000と器具備品500)」と負債「1,400(買掛金400と借入金1,000)」を個人開業時代の簿価のまま、法人に引き継ぐケースは結構あります。
このケースでは資本金は「10」なので、「資産1,500-負債1,400-資本金10=90」を個人開業していた者(一般的には社長)に対する未払金として計上することで貸借を合わせます。
医療法人化したら、借りてもいない「借金」が出現!?
上記のように株式会社であれば少ない資本金で法人化が可能ですが、医療法人の場合は設立当初の拠出額(基金)は多くなる傾向が見られます。
例えば下記図表2のような個人開業クリニックがあったとします。
[図表2]個人開業クリニックの貸借対照表
医療法人設立認可申請の時に、医療機器「500」と建物保証金「500」を拠出し、負債の引継ぎは借入金のうち「300」だけが認められ、差額の「700」は基金になったとします。
このケースでは設立時の財産目録は下記図表3のようになります。
[図表3]
本来であれば医療法人設立当初の貸借対照表は上記財産目録と同じになるべきですが、多くの場合は下記図表4のような貸借対照表になっています。
[図表4]医療法人設立当初の貸借対照表
個人開業クリニック時代の資産と負債をそのまま簿価で引き継ぐことが多いからです。借入金は医療法人設立認可申請時に「300」だけ引き継ぐとして申請書を出しているので、借入金「300」だけを引き継ぎ、残りの個人名義の借入金「1,200」を引き継がない場合もありますが、借入金「1,500」を引き継いだものとして処理をする税理士は結構多いです。
貸借対照表は貸借の金額を一致させる必要があるので、このケースでは「資産2,500-負債2,300-基金700=△500」となり貸借が一致しません。そこで個人開業していた者(一般的には理事長)に対する貸付金「500」を計上することで貸借を合わせてしまいます。
「医療法人化したら借りてもいないお金を借りたことになった」と怒っている理事長は多くいますが、そのカラクリをご理解いただけたでしょうか。
税理士にすれば、個人開業時代の最終の貸借対照表に合わせようとするために、設立時の財産目録に計上されていない資産「1,500(預金500+未収金1,000)」から同じく財産目録に計上されていない負債「2,000(買掛金800+引き継ぐことが認められなかった借入金1,200)」を引き継ぐので、差額の「500」は理事長に対する貸付金として処理しただけという感覚だと思われます。
ちなみに、もし設立時の基金が「200」で済んでいたら、同じような感覚で資産と負債を簿価で引き継いでも医療法人設立当初の貸借対照表は下記図表5のようになります。
[図表5]医療法人設立当初の貸借対照表(基金200の場合)
基金の額はできるだけ少なくしたほうが有利だということも、ご理解いただけると思います。