個人事業の医療法人化・・・設立当初の拠出額を抑制すべき理由

今回は、個人事業を医療法人化する際に設立当初の拠出額を抑制すべき理由を見ていきます。※本連載は、税理士・行政書士で、医業経営研鑽会会長の西岡秀樹氏、特定行政書士・医業経営コンサルタントの岸部宏一氏、特定行政書士・認定登録医業経営コンサルタントの藤沼隆志氏、行政書士・入国管理局申請取次行政書士の佐藤千咲氏の共著『医療法人の設立認可申請ハンドブック』(日本法令)から一部を抜粋し、医療法人設立時にポイントとなる「基金・財産・負債」について解説していきます。

通常の個人事業を法人化した場合の貸借対照表の例

前回の続きです。

 

〔3〕貸借対照表上の処理

 

通常の個人事業が法人化した時、個人開業時代の資産と負債を引き継がない場合を除き、一般的には下記図表1のような処理をします。

 

[図表1]

 

資産「1,500(売掛金1,000と器具備品500)」と負債「1,400(買掛金400と借入金1,000)」を個人開業時代の簿価のまま、法人に引き継ぐケースは結構あります。

 

このケースでは資本金は「10」なので、「資産1,500-負債1,400-資本金10=90」を個人開業していた者(一般的には社長)に対する未払金として計上することで貸借を合わせます。

 

医療法人化したら、借りてもいない「借金」が出現!?

上記のように株式会社であれば少ない資本金で法人化が可能ですが、医療法人の場合は設立当初の拠出額(基金)は多くなる傾向が見られます。

 

例えば下記図表2のような個人開業クリニックがあったとします。

 

[図表2]個人開業クリニックの貸借対照表

 

医療法人設立認可申請の時に、医療機器「500」と建物保証金「500」を拠出し、負債の引継ぎは借入金のうち「300」だけが認められ、差額の「700」は基金になったとします。

 

このケースでは設立時の財産目録は下記図表3のようになります。

 

[図表3]

 

本来であれば医療法人設立当初の貸借対照表は上記財産目録と同じになるべきですが、多くの場合は下記図表4のような貸借対照表になっています。

 

[図表4]医療法人設立当初の貸借対照表

 

個人開業クリニック時代の資産と負債をそのまま簿価で引き継ぐことが多いからです。借入金は医療法人設立認可申請時に「300」だけ引き継ぐとして申請書を出しているので、借入金「300」だけを引き継ぎ、残りの個人名義の借入金「1,200」を引き継がない場合もありますが、借入金「1,500」を引き継いだものとして処理をする税理士は結構多いです。

 

貸借対照表は貸借の金額を一致させる必要があるので、このケースでは「資産2,500-負債2,300-基金700=△500」となり貸借が一致しません。そこで個人開業していた者(一般的には理事長)に対する貸付金「500」を計上することで貸借を合わせてしまいます。

 

「医療法人化したら借りてもいないお金を借りたことになった」と怒っている理事長は多くいますが、そのカラクリをご理解いただけたでしょうか。

 

税理士にすれば、個人開業時代の最終の貸借対照表に合わせようとするために、設立時の財産目録に計上されていない資産「1,500(預金500+未収金1,000)」から同じく財産目録に計上されていない負債「2,000(買掛金800+引き継ぐことが認められなかった借入金1,200)」を引き継ぐので、差額の「500」は理事長に対する貸付金として処理しただけという感覚だと思われます。

 

ちなみに、もし設立時の基金が「200」で済んでいたら、同じような感覚で資産と負債を簿価で引き継いでも医療法人設立当初の貸借対照表は下記図表5のようになります。

 

[図表5]医療法人設立当初の貸借対照表(基金200の場合)

 

基金の額はできるだけ少なくしたほうが有利だということも、ご理解いただけると思います。

西岡秀樹税理士・行政書士事務所所長
医業経営研鑽会会長 税理士 行政書士

昭和45年東京都生まれ。大原簿記学校に在籍中に簿財2科目に合格、同校卒業後一度に税法3科目に合格して税理士となり、医業経営コンサルタント会社勤務を経て平成12年に独立。
平成22年に医業経営研鑽会を設立し、現在まで会長を務めている。

著者紹介

MedS.医業経営サポーターズ代表
横浜医療法務事務所代表
 特定行政書士 医業経営コンサルタント

1965年東京都生まれ(秋田市育ち)、1988年中央大学商学部商業・貿易学科卒。バイエル薬品(株)で10年余MR経験後、民間医療法人事務長を経て、(株)川原経営総合センター(川原税務会計事務所/現:税理士法人川原経営)医療経営指導部で修行、2001年行政書士登録、2004年独立。

著者紹介

VALL行政書士法人 代表社員行政書士 特定行政書士 認定登録医業経営コンサルタント

1976年生。岩手県盛岡市出身。帝京大学文学部教育学科教育学専攻卒業。在学中に独学で宅地建物取引主任者試験に、同じく独学で2002年に行政書士試験に合格。
2010年4月より2012年3月まで東京都の医療法人指導専門員(専務的非常勤職員)として医療法人の各種届出・認可申請の書類審査及び電話・窓口相談業務に携わる。

著者紹介

佐藤行政書士事務所代表 行政書士 入国管理局申請取次行政書士

1968年名古屋生まれ。千葉県育ち。
1991年3月立教大学文学部英米文学科卒業後、1991年4月住友商事株式会社入社。
2002年6月行政書士事務所開業。

著者紹介

連載医療法人の設立認可申請~「基金・財産・負債」編

本連載は、2017年9月15日刊行の書籍『医療法人の設立認可申請ハンドブック』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

医療法人の設立認可申請ハンドブック

医療法人の設立認可申請ハンドブック

編者:医業経営研鑽会
著者:西岡秀樹、岸部宏一、藤沼隆志、佐藤千咲

日本法令

医療法人の設立認可申請におけるポイントを詳しく解説。医療法の正しい知識・解釈と、各自治体で異なること(ローカルルール)が多い手続きの実務や注意点がよくわかる。申請に必要な書類の実例(設立趣意書・議事録・事業計画…

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