運転資金の効果は「個人」に帰していると考えられる
〔3〕運転資金の借入を引き継ぐことができない理由
前回、運転資金にあてた借入金は引き継ぐことができないと説明しました。このことについて「なぜですか」とよく質問を受けますが、運転資金は拠出財産の取得に使ったものではなく、その効果がすでに個人に帰していると考えられるからです。
たとえクリニックの運営に使ったと主張しても、本当にクリニックの運営に使ったものだという証拠がありませんし、事業所得の利益の一部になっている可能性もあります。さらにクリニックの運営といっても他の借入金の返済に使っていたり、生活費の一部に使っていたり、お子様の学費の一部に使っている可能性もあります。
ですから、厚生労働省も財産の取得又は拡充のために生じた負債以外は引き継ぐことが適当ではないとしています。
●医療法人制度について
([医政発第0330049号平成19年3月30日/最終改正:医政発0531第1号平成24年5月31日]より抜粋)
ただし、負債が財産の従前の所有者が当然負うべきもの又は医療法人の健全な管理運営に支障を来すおそれのあるものである場合には、医療法人の負債として認めることは適当ではないので、設立の認可に当たっては十分留意されたいこと。
当該借入により拠出財産を取得した裏付けを用意
〔4〕引継ぎに必要となる根拠資料
①当該借入により拠出財産を取得した裏付け(領収証等)
当該借入により拠出財産を取得した裏付けとなる根拠資料としては、契約書や領収書を用意します。その際、領収書は融資実行日以降の日付を要求する自治体もあるので注意してください。また、これらの根拠資料が揃わない場合は、そもそも負債を引き継ぐことができません。
要件を満たさず借入引継ぎができない場合は、買取りなどで対応するか(詳細は次回を参照)、役員報酬を原資として個人で返済することになるため、後々のトラブルを回避するためには、その旨を当事者が納得した上で手続きを進めることが重要です。
②金銭消費貸借契約書
名目が設備費用、医療機器購入費等であり、運転資金ではないことが明示されている必要があります。
個人開設時に開業ブローカーが介入している場合、「開業資金として」などと一まとめにして、わざとわかりにくくしている場合があるので、注意が必要です。
③返済予定表
必ず探して添付する必要があります。万が一見つからない場合は、顧問税理士に確認するか、金融機関に再発行してもらうことになります。
④金融機関から引継ぎ承諾書を得る手順
金融機関には早めに打診する必要があります。その際、計算式を説明した資料の添付が必要になる場合もあります。
金融機関に承諾を得ないまま医療法人設立認可申請の手続きを進め、自治体に書類を提出した後に金融機関に説明に行ったところ、承諾を得られず、法人設立が暗礁に乗り上げたケースもあると聞きます。そうした事態を避けるべく、金融機関には必ず院長から第一報を入れた後、顧問税理士又は担当の行政書士等から直接説明に行くことをお勧めします。
なお、承諾書への押印は、金融機関の場合は支店長印で構いません。