本連載は、税理士・行政書士で、医業経営研鑽会会長の西岡秀樹氏、特定行政書士・医業経営コンサルタントの岸部宏一氏、特定行政書士・認定登録医業経営コンサルタントの藤沼隆志氏、行政書士・入国管理局申請取次行政書士の佐藤千咲氏の共著『医療法人の設立認可申請ハンドブック』(日本法令)から一部を抜粋し、医療法人設立時にポイントとなる「基金・財産・負債」について解説していきます。
実務上は「基金制度の採用」がスタンダード
〔1〕そもそも基金制度は必要か?
基金制度を採用するかどうかは任意です。しかし、特段の事情がない限り、定款に基金制度について定めることをお勧めします。
なぜなら、基金制度を採用しなければ、医療法人設立時に拠出したお金が一切返ってこないからです。実際、各自治体の定款例にも基金の章が設けられており、実務上は基金を採用することがスタンダードになっています。
その際、拠出額はできる限り少額に設定することをお勧めします。拠出金が多くなると返還期限まで“塩漬け”になる額が増えるのみで、メリットはないからです。
ただ、以前に比べると拠出額が大きくなることのデメリットは少なくなっています。以前の持分の定めのある医療法人の場合、資本金が1千万円を超えると消費税の課税事業者に該当したので、「不利になるから1千万円を超えないように」とアドバイスしていました。
その名残で、持分の定めのない医療法人における基金も1千万円未満を目安にされることが多いのですが、基金は税法上、資本金には該当しません。そのため基金が増えても、返還期限を短めに設定すれば大きな問題とはなりませんが、それでも返還までの数年間は拠出した個人(多くは理事長)の資金繰りが著しく悪化します。
以上の理由から、いずれにしても基金の額はできる限り少額にすることをお勧めします。
基金の総額をできる限り少額にするには・・・
〔2〕基金総額の定め方
前述のように基金はできる限り少額にしたいところですが、そのためには、例えば医療機器、診療所建物・内装等などの財産は拠出して借り入れを引き継ぐのではなく、買い取りや賃貸にする方法も有効です。またその際、支払いの分割や猶予等によって当初の運転資金を小さくすることも可能です。
ただし、医療機器の賃貸は契約が複数にわたる場合、反復継続性ありと解される可能性があるので、その際は薬機法の許可が必要となることに注意してください。
西岡秀樹税理士・行政書士事務所所長
医業経営研鑽会会長
税理士 行政書士
昭和45年東京都生まれ。大原簿記学校に在籍中に簿財2科目に合格、同校卒業後一度に税法3科目に合格して税理士となり、医業経営コンサルタント会社勤務を経て平成12年に独立。
平成22年に医業経営研鑽会を設立し、現在まで会長を務めている。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載医療法人の設立認可申請~「基金・財産・負債」編
MedS.医業経営サポーターズ 代表
横浜医療法務事務所 代表
特定行政書士 医業経営コンサルタント
1965年東京都生まれ(秋田市育ち)、1988年中央大学商学部商業・貿易学科卒。バイエル薬品(株)で10年余MR経験後、民間医療法人事務長を経て、(株)川原経営総合センター(川原税務会計事務所/現:税理士法人川原経営)医療経営指導部で修行、2001年行政書士登録、2004年独立。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載医療法人の設立認可申請~「基金・財産・負債」編
VALL行政書士法人 代表社員行政書士
特定行政書士 認定登録医業経営コンサルタント
1976年生。岩手県盛岡市出身。帝京大学文学部教育学科教育学専攻卒業。在学中に独学で宅地建物取引主任者試験に、同じく独学で2002年に行政書士試験に合格。
2010年4月より2012年3月まで東京都の医療法人指導専門員(専務的非常勤職員)として医療法人の各種届出・認可申請の書類審査及び電話・窓口相談業務に携わる。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載医療法人の設立認可申請~「基金・財産・負債」編
佐藤行政書士事務所代表
行政書士 入国管理局申請取次行政書士
1968年名古屋生まれ。千葉県育ち。
1991年3月立教大学文学部英米文学科卒業後、1991年4月住友商事株式会社入社。
2002年6月行政書士事務所開業。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載医療法人の設立認可申請~「基金・財産・負債」編