今回は、医療法人化で「債務全額」の即時返却を求められたケースについて見ていきます。※本連載は、税理士・行政書士で、医業経営研鑽会会長の西岡秀樹氏、特定行政書士・医業経営コンサルタントの岸部宏一氏、特定行政書士・認定登録医業経営コンサルタントの藤沼隆志氏、行政書士・入国管理局申請取次行政書士の佐藤千咲氏の共著『医療法人の設立認可申請ハンドブック』(日本法令)から一部を抜粋し、医療法人設立時にポイントとなる「基金・財産・負債」について解説していきます。

医療法人化を検討する際、金融機関の担当者へ報告を

前回の続きです。

 

また、銀行からの借入れについて金銭消費貸借契約書には次のような条項があるケースが多いです。

 

第○条(期限の利益の喪失)

1 借主について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、借主はこの契約による債務全額について期限の利益を失い、当初の返済方法によらず、直ちにこの契約による債務全額を返済するものとする。

 

○ 乙がその営業又は営業用財産の全部又は重要な一部の譲渡を決議し又はこれらを譲渡した時、あるいは乙がその営業を休止又は廃止した時。

 

このような条項があっても医療法人化の場合には期限の利益を喪失したとして金融機関から全額返済を求められることはありません。過去に一度だけ「法人化したので営業を廃止しており、期限の利益の喪失に該当するため全額すぐに返済してください」と政府系の金融機関から言われたケースがあります。このケースでは、医療法人化した際に個人名義の借入金を引き継がず、そのまま個人で返済していましたが、理事長が医療法人化したことを金融機関に知らせておらず、医療法人化してしばらく経ってから金融機関が医療法人化した事実に気づいたので、金融機関側も腹が立ってこのようなことを言い出したのでしょう。

 

月々の返済はきちんと行っており、また、確かに個人での事業は廃止しているものの事業を法人化しただけで医療機関としては事業を継続しており、金融機関とも医療法人化した後も連絡が取れており、債務者の信用状態が著しく低下すると認められる、又は取引の継続が困難と判断できる状況ではなく、期限の利益の喪失を主張するのは公序良俗に反していると説明したところ、すぐに金融機関側も失言を認め、今まで通り月々の返済を続けることになりました。

 

このような金融機関との無用なトラブルを避けるためにも、医療法人化を検討するときには金融機関の担当者に法人化する旨を伝えるべきです。

MS法人と医療法人の「役員兼務」は避けたほうがよい

〔2〕契約当事者としてMS法人を活用する場合

 

MS法人から売買あるいは賃貸する場合も、特別な手続きが必要になるわけではありません。不動産について賃貸借契約を結ぶ場合は近傍類似を探して、家賃の適正性を示すということも同じです。

 

しいて言えば、会社(MS法人)と設立後の医療法人の関係について説明する必要があるなど、添付書類が多少増えます。また、書籍『医療法人の設立認可申請ハンドブック』第2章で医療法人設立認可申請時には医療法人の役員とMS法人の役員兼務は避けたほうがよいと説明しましたが、特に売買契約や賃貸借契約を締結する場合は、役員兼務関係は解消しておいてください。

 

なお、平成29年4月2日以降に開始する決算期からは、MS法人との一定額以上の契約について毎年の事業報告の際に都道府県に報告が義務づけられています。

本連載は、2017年9月15日刊行の書籍『医療法人の設立認可申請ハンドブック』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

医療法人の設立認可申請ハンドブック

医療法人の設立認可申請ハンドブック

編者:医業経営研鑽会 著者:西岡秀樹、岸部宏一、藤沼隆志、佐藤千咲

日本法令

医療法人の設立認可申請におけるポイントを詳しく解説。 医療法の正しい知識・解釈と、各自治体で異なること(ローカルルール)が多い手続きの実務や注意点がよくわかる。申請に必要な書類の実例(設立趣意書・議事録・事業計…

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