会社を測るシンプルな指標として利用される「ROE」。今回は、長期的な視点でROEを向上させる必要性などについて見ていきたい。

一時的なROE向上策の濫用は危険

数字だけで言えば、ROEの値を向上させるのはそれほど難しくない。ROEは「当期純利益÷自己資本」で算出するため、とにかく分子(当期純利益)を増やせば値を引き上げることができる。逆に分子を増やせなくても、分母(自己資本)を減らすことができれば、ROEの値は一時的に改善されるだろう。


だが、当期だけの利益を考えたり自己資本を減らしたりしてROE向上を図るのは諸刃の剣だ。経営陣が代わると、前経営陣を否定することで、新経営陣の経営手腕の高さをアピールすることがままある。このとき将来のことを考えずに、分母を減らす施策=一時的にROEを引き上げる施策を濫用するとどのようなことになるか。資産売却や自社株買い、配当の増額などがこれに相当するだろう。

ROEを考える際に最も重要になるのは「時間軸」

たとえば不採算事業から撤退し、その事業で使用していた資産の売却などで出た損失で、一時的に大赤字を出すと、自己資本は目減りする。また、売上高を増やしたり、経費を削って利益を増やしたりすることは容易ではないが、含み益がある資産を売却すると、当期純利益が底上げされて、その期だけはROEは上がる。


その撤退が、翌期以降の採算改善を呼び込むためのものならば、ROE向上策としては正攻法だ。だが、その会社にとって必要な資産を、単にその期の利益を一時的に底上げするために売却してしまったら、利益を生む資産を失うのだから、翌期以降はまた元の黙阿弥どころか、以前よりも収益力は下がってしまう。


負債圧縮のために、事業あるいは資産の売却を実行に移しはじめると、買い手がつくのは会社にとって必要な資産ばかりで、売りたい資産には買い手がつかない、というのはよくある話だ。ましてや銀行への返済の必要に迫られ、重要な資産を売ってしまうと、会社としては、事業継続が難しくなる。


ROEを考える際に、最も重要になるのは時間軸である。ファンドなどのエクイティプレイヤーは3〜5年、銀行は5〜7年の短期的視点で会社を見てくるが、経営者は5〜10年といった長期的視点で会社を経営している。ゆえに、本来ROEは長期的な視点で定められなければならないし、投下した資本に対して本業の利益を効率的にあげることによって、すなわち分子を上げていくことによって達成していく必要がある。

本連載は、2010年3月1日刊行の書籍『CFO経営 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

CFO経営

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佐藤 英志,須原 伸太郎

幻冬舎メディアコンサルティング

上場企業を取り巻く環境は、この30~40年の間に激変しました。カリスマ社長の「勘」だけでモノが売れたのは、昔の話。経営が複雑化した時代に企業に求められるのは、財務の専門家の視点を持った経営です。本書では、なぜCFOが…

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