予算策定を「絵に描いた餅」にしないために・・・
上場企業は、各決算期末から45日以内に終了した期の決算短信を作成し、公表する。また、本決算期末には、短信のみならず、3カ月以内に有価証券報告書を作成する義務が課せられているほか、会社法上の開示書類もあわせて作成の上、株主総会の承認を受けなければならず、また、税務当局に提出する確定申告書の提出義務も負っている。
このように、CFOという役職からイメージされるもののひとつが、決算時に「過去」の実績をまとめる仕事だろう。しかし、彼らの仕事はこれだけではない。
新しい年度が始まる前には「未来」の業績を作る仕事、すなわち予算策定、業績予想の策定にかかわり、期中ではこれらのプランが実現されているかを月次でモニタリングする。そして各決算期末においてはミスなく迅速に決算発表ができるよう段取りを組む――。このいずれにおいても、CFOの手腕が問われてくるのだ。
それでは、それぞれの段階でのCFOの役割についてみていこう。
年度初めの社内向けの予算策定で重要なのは、「絵に描いた餅」にならないよう、根拠のある数字を積み上げていくことだ。市場環境や競合他社の状況も加味し、増収増益が望めない年度に、無理やりポジティブな数字を掲げても意味がない。事業部ごと、商品ごとにKPI(key performanceindicator:重要業績評価指標)を定め、これらを積み上げていくことで、現実的な数字を定めるべきである。
これらボトムアップ型の数字に対して、トップマネジメントの意志も考慮し、KPIの見直しや具体的な施策を同時に検討した上ですり合わせ、調整を図ることも重要だ。また、この際いくつかのケースにおけるコンティンジェンシープラン(不測の事態が起きることを想定したプラン)を作成する必要がある。戦略の項で前述したが、マネジメントケース、ベースケース、リスクケースそれぞれを準備しておくことが望ましい。
なお、これら予算の使い方については、会社の方針により運用には幅があろう。予算達成上のバッファーをもうけるために、社内予算としてはマネジメントケースを設定する場合もあれば、あくまでベースケースを社内向け予算として組むことで必達を目指すケースもある。
社内向けの予算は「期中のモニタリング」も重要
また、予算達成という意味では期中に事業上の取引やM&Aを行なう際、これらの取引を行なうことで今期及び翌期以降のB/S、P/L、C/Fにどのような影響が生じるかを検証し、監査法人にも裏付けを取りながら事業サイドとの調整を進めることも重要だ。いずれにしても、CFOとしては最終数値を確保すべく社内外をコントロールするコンダクターとしての役割が求められるのだ。
社内向けの予算は、単に「作りっぱなし」にするのではなく、期中におけるモニタリングが重要である。予算と、月次でウオッチしている業績がかけ離れてきた場合には、社内的にも予算を見直す必要が生じてくる。これを予算のローリングという。
一方、これらの社内向けに策定した予算をもとに、ステークホルダーに対しての情報開示を行なうことになる。その中でも投資家向けの業績予想に関しては、ぴたりと当たることはないにしても、あとからみて大幅に外れていない予想になっていることが望ましい。
しかし、実際の開示書類を見てみると、業績予想数値との乖離が著しく、決算発表直前になって下方修正を出す会社は少なからずある。反対に、赤字予想だった会社が黒字決算になった、という例も見かけるが、投資家の立場からみれば、どちらも迷惑な話である。
有価証券報告書や会社法上の法定書類の作成に、多大な時間と労力がかかっていることは周知の事実であろう。仮に、開示書類のミスがあった場合には、決算短信や有価証券報告書に対する訂正報告書を提出しなければならないし、提出期限を過ぎた場合には、開示遅延として、ペナルティが課される。もしミスがあると、会社の信頼を損ねることになるため、CFOのみならず、担当部署としては四半期ごとに訪れるプレッシャーのかかるプロジェクトとなっている。
CFOも他の事業部の責任者と同様、取引先(監査法人、財務局、上場市場、税務当局等)との調整を図りながら、納期とアウトプットの品質を保つべく、組織を盛り上げ、ゴールを達成することが求められているのである。