監査法人とのコミュニケーションがなぜ重要なのか?
決算書の作成にあたっての、監査法人との交渉もCFOの重要な役割だ。近年、内部統制やコンプライアンスの強化を求める声が高まる中、監査法人の姿勢はますます厳格化している。過去に甘い決算を認めていた同じ監査法人が、掌を返したように辛い決算を指示するケースも多い。
たとえば、監査法人から期末になって、予期せぬ引当計上や、それによって下がる当期純利益、場合によっては赤字を前提に繰延税金資産の取り崩しを指示され、決算発表直前に大幅な下方修正を余儀なくされる・・・という事態も珍しいことではなくなった。
そんな時、「昔は認めてくれたのに」などと文句を言ってもはじまらない。むしろ、日ごろから、監査法人とのコミュニケーションを密にし、彼らの意向を手前で把握しながら対応策を考えておくべきであろう。なお、監査法人との交渉によって、過去の会計処理を見直すことを想定した場合、少し時間をかけて顕在化させる方法と、一気呵成に処理をしてしまう方法と、2つの方法がある。
前者を選べば、今期の数字が非常に厳しいものになることが予想される。後者であれば、問題を未来に先送りしてしまう。どちらが望ましいかはケースバイケースであり、その会社の状況やステークホルダーとの関係において決まってくるものであろう。もちろん、当然なすべき損失処理で債務超過に陥ってしまうというときに、それを無理矢理回避すれば、粉飾決算との非難を受けかねない。
だが、決算には裁量が働く部分が存在する。監査法人が、一体どの水準を最低限度、もしくは必要な水準と考えているのかを探り出し交渉するのもCFOの役割である。ちなみに経営者が交代したタイミングで、「過去のウミを出し切る」という名目のもと、必要以上の引当処理をして大赤字を出すケースがある。これは翌期に好決算を組んでV字回復をアピールするためのものだ。前任者との対比で自己アピールするためにしばしば使われる演出だが、この手法は決算の連続性という観点からすると、逆粉飾だという意見もあることを付記しておく。
GC注記にまつわる悩ましい問題・・・
監査法人は、基本的に過去の結果報告をチェックする役回りなのだが、監査対象企業の継続性(Going Concern =GC)については未来の予測もしなければならない。
たとえば、借金の返済期限が半年後に到来するがその返済資金手当てがついていない場合、あるいは赤字が続いていて黒字転換の見通しが当分立たず、債務超過に転落する恐れがある場合など、その企業の存続性に疑問が持たれるような要因があるときには、投資家に対して事前に警告すべきだとされているのだ。それがゴーイング・コンサーン(GC)についての注記である。
GCは、当初は自己防衛的に、監査法人が監査報告書に記載するところからはじまり、次第に会社自身にその状況を自覚させて自らリスク情報として開示させ、それを監査法人も追記する形式に移行した。現在では、決算短信や有価証券報告書のどのページに記載するか、といった細かい規定まで決められている。
筆者は、この事態は監査法人にとって気の毒だと考えている。なぜなら、会計監査とは、過去の情報の検証のはずである。それが、GC注記の内容は将来予測を含んでおり、それも含めて意見表明を行なわなければならなくなったためだ。このような制度上の難しさが、監査法人の「意見不表明」という事態をもたらし、結果的に、企業に皺寄せが来てしまっている。
このGCについては、企業業績が好調だった2008年3月期まではあまり大きな問題にはならなかったが、リーマンショック以降、業績が急降下する会社が続出した。監査対象企業が万が一倒産したときに、事前に監査法人がGCを付けていなかったとなると、投資家からクレームが付く事態となるため、監査法人が非常に保守的にGCを判断するようになってきた。
GCが付いてしまうと、投資家が警戒し金融機関の姿勢も厳しくなるとあって、企業として放ってはおけない問題になってきた。ここにきて、金融庁がその内容を緩和する方針を発表し、その方針が実行されるようになったが、監査法人を説得する材料は、早期の黒字化、そして赤字の中どうキャッシュフローを確保するのかについての、合理的な計画以外にはない。この計画立案と、監査法人への説明、そして説得に、CFOは不可欠の存在と言える。