前回は、効果的かつ効率的な資産調達の進め方について解説しました。今回は、資産調達の手段として知られる直接金融と間接金融の違いなどを中心に見ていきます。

融資利用の意思決定に必要な「経営者の視点」

なぜ金融機関は、戦略の実行に齟齬をきたすような、長期借入金から短期借入金への切り替えを許すのか。それは、返済期限がこまめに到来する短期のほうが、企業に対してイニシアティブをとりやすいからである。逆に、短期から長期への切り替えにはなかなか応じてもらえないのが普通だ。


したがって、キャッシュフローを生むまで相応の時間がかかるような設備投資資金を調達する際には、安易に「とりあえず短期であとから長期に切り替える」「長期借入金で賄うべきものを短期借入金で賄う」という選択肢を選ぶことは是非とも避けるべきだろう。


CFOはファイナンスの専門知識を持った経営者である。金融機関は担当者が稟議書を書き、その稟議書をもとに融資に応じるかどうかの意思決定を下す。したがって、金融機関のロジックに沿って説明ができればより説得力を増す。


ファイナンスの専門家として、金融機関のロジックに則って事業計画、必要資金の額、生み出す利益の額とその時期を説明する。それだけならば多少優秀な経理部長で十分機能するが、そこに経営者としての視点が加わることで、より説得力が増すのである。

「私募型」と「公募型」に分かれる直接金融

直接金融とは、資本市場から資金を調達することを言う。社債の発行と株式の発行はその代表格である。この他に社債と株式の双方の性格を持つ新株予約権付社債もあるし、社債にも劣後債、ハイブリッド債、株式にも普通株式、優先株式、種類株式などさまざまな種類があるが、本連載ではこのうち最もポピュラーな、社債、新株予約権付社債、そして普通株式に絞って説明する。


本題に入る前に、まずは直接金融と間接金融の違いに触れておこう。

 

間接金融があくまで金融機関との1対1の取引であるのに対し、直接金融は1対不特定多数の取引である。1対1であることと、1対不特定多数であることの最大の違いは、前者は交渉が効くが、後者にはほぼ交渉の余地はないという点にある。金融機関に融資を依頼するときには、融資額も、利率も、融資期間もお互いの話し合いで決まっていく。だが、直接調達の場合は、会社側が一方的に決めた条件に、投資家がついてくるかどうかという関係になる。


社債にしろ、株式にしろ、新株予約権付社債にしろ、利率や募集総額、発行単価などの募集条件は、すべて会社側が決定して募集をかける。むろん、その条件で投資家が応募してくれるかどうかのリサーチは綿密に行なうが、会社側は投資家と顔を付き合わせて事業計画を説明するわけでも、この条件でいいかどうかの確認ができるわけでもない。


間接金融の場合は金融機関に出向き、資料を見せながら口頭で資金使途や事業計画、返済原資の説明をするわけだが、直接金融の場合は、その説明はすべて目論見書という冊子に書き込み、その冊子を投資家は読み、納得すれば応募するという手順になる。したがって、直接調達の場合は、「話してわかってもらう」のではなく、書面ですべてを説明するというアプローチになるのである。

 

もう一歩踏み込んで言うと、直接金融には、社債や株式を買いたい人なら誰でも応募ができる「公募型」と、特定の第三者だけが応募できる「私募型」がある。「公募型」の場合は、新たに社債や株式が発行されると、幹事証券会社がいったん全部を買い取る。投資家からの応募は会社ではなく証券会社が受付け、証券会社は買い取った社債や株式を、応募してきた投資家に転売する。


この幹事証券が事前に顧客である投資家の反応をリサーチしてくれるので、そのリサーチ結果に基づいて発行条件を決めるという手順になっているのである。したがって、現実に投資家に対して「目論見書」に書かれていることや、その会社の将来性を説明しているのは証券会社のセールスマンなのである。


これに対し、「私募型」の場合の案件の処理の仕方は、間接金融の場合に比較的近い。不特定多数の人や企業ではなく、特定の人や企業に社債や株式を買ってもらえるよう説明をするわけで、金融機関に融資の依頼をする際とアプローチは似てくる。

本連載は、2010年3月1日刊行の書籍『CFO経営 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

CFO経営

CFO経営

佐藤 英志,須原 伸太郎

幻冬舎メディアコンサルティング

上場企業を取り巻く環境は、この30~40年の間に激変しました。カリスマ社長の「勘」だけでモノが売れたのは、昔の話。経営が複雑化した時代に企業に求められるのは、財務の専門家の視点を持った経営です。本書では、なぜCFOが…

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