今回は、北朝鮮情勢の今後について取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

中長期的には楽観している

ここまで少し暗いことばかり挙げてきました。しかし、私は、短期的には米朝関係が緊張するかもしれませんが、この危機を乗り越えれば、軟着陸していく可能性があると思っています。

 

だから中長期的には楽観しているんです。

 

どうしてか。仮に今後、北朝鮮とアメリカの緊張が解けて関係が正常化したとしましょう。そうすれば日朝関係も正常化していきます。

 

北朝鮮の労働力、1日の賃金が幾らぐらいだと思いますか? これについて正確な統計データはありませんが、北朝鮮と韓国が共同で運営している経済特別区の開城工業団地の賃金から推測すると、1日当たり1ドルから3ドルくらいです。これは時給ではありませんよ。熟練工でも3ドル出せば十分に雇えます。

 

北朝鮮の人たちは、意外と手先が器用で、被服縫製をやらせてみてもいいものを作りますし、製造業でも教育水準は高いから十分対応できることが多い。それだけではなく、半導体の組み立てだってできるでしょう。

 

しかも、政府と相談して合意さえすれば、日本のような労働基準法も労働組合もないから労働争議も起きないし、ストライキも絶対にない。これは魅力的な市場と思いませんか? こうなると各国が北朝鮮に進出してくるんですよ。もしそうなったら、日本も出ていった方がいいと思う。

 

そうしたらどうなるか。今、北朝鮮の民衆は金正恩の配給によって生きているわけです。私の父母は戦前戦中の日本で生活していましたが、私に「紀元節とかの時に、紅白饅頭を学校でもらうと本当にうれしかった」という話をしてくれました。いまの北朝鮮はこういう世界です。北朝鮮も、民衆の立場で考えれば、あの体制の中でもそれなりの幸せはあるし、配給があれば金正恩委員長に感謝しているわけです。子どもが学校に入学する時にはランドセルだってくれる。

 

もし、日本やアメリカの企業が進出して、北朝鮮の普通の民衆が、自分で稼いだカネでコメを買い、肉を買い、野菜を買うようになったらどうなるでしょうか。独裁者に対して面従腹背になる。どんな独裁国家だって、そういう草の根の民意を無視することはできないんです。

 

私は1987年から95年までモスクワにいました。そこでソ連が崩壊する様子を間近に見てきたわけです。当時、ゴルバチョフが1985年に権力の座に就いて、87年からペレストロイカ政策を始めた。88年ぐらいから部分的な市場経済を導入した結果、国営企業や国の配給システムに頼らないで、自分の欲望を自分の能力によって人々が満たせるようになったんです。そうしたらどうなったか。みんな面従腹背になった。

 

そして89年には誰も共産党や秘密警察を怖がらなくなった。当時のソ連は、今の北朝鮮よりずっと軍事力も強い。核兵器だって確認できないほどの数を持っていた。それなのに中から国が壊れていったんです。

 

それだから、北朝鮮の国民が「自分の労働によって欲望が実現できる」という仕組みを入れていくことができれば、あの体制は変わる。拉致問題に関しても、日本が早く北朝鮮に、大使館でなくてもいいから、日本政府の代表部をつくれば、情報はいろいろ出てくるはずです。

 

私はそういうところで、中長期的には楽観しているんです。

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

一触即発の世界はいつまで続くのか。 佐藤優が北朝鮮問題に切り込んだ本書の内容をQ&Aで紹介します。(本書の内容を構成しました。「…」部分は本書で) Q 米朝開戦の可能性は⁉︎ 佐藤優 危機は高まってきている。5軒先でボ…

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