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日本が抱える「産業構造の転換」という深刻な問題

今回は、日本が抱える「産業構造の転換」という深刻な問題を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

日本の核武装は無理

前回の続きです。

 

それではどうやって防衛すればいいのでしょうか。

 

「日本も核武装しよう」という意見が、一部の勇ましい人にある。これは無理です。しかし、無理だという結論は多くの人が言うんだけど、どうして無理かという議論は、ほとんどなされていません。これを考えていきましょう。

 

まず第一に、原発があるからです。日本はNPT(核兵器不拡散条約)に非核保有国として加わっています。そして日米原子力協定によって、アメリカからウランの提供を受けることによって原発は回っています。今の日本政府のエネルギーミックス政策では、原発は2割を占めています。もちろん現時点では、再稼働が十分に行われていないから2割も持っていません。しかし、石炭で発電を続けていたら、CO2が増えてしまう。だから結局は原子力に依存することになる。

 

先進国は二酸化炭素排出に敏感です。では、ドイツはどうしているのでしょうか。ドイツはフランスの原発でつくった電力を買っています。それから東欧にも原発をどんどんつくって、ドイツ国内には原発を一つもつくらず、周辺国につくらせて、そこから電力を吸い上げていくというやり方を取っています。

 

ドイツひどいな、という話ですが、日本に目を転じてみると、東京都に原発はありますか? どうして新潟の柏崎刈羽と福島に原発があるのでしょうか。東京都をドイツだと見れば、新潟と福島がポーランド、チェコの役割を果たしているわけです。こういう構造的な問題が日本にもある。いずれにせよ、世界の趨勢で電力需要が非常に増えてきて、化石燃料への依存を減らさなくてはいけないという与件は今後変わらないと思います。

自動車の内燃機関がモーターになると・・・

ちょっと脇にそれますが、今、注目すべきは、ヨーロッパ情勢です。大変なことが起きようとしている。

 

110年前にできたT型フォードの内燃機関であるガソリンエンジンの終焉が始まっています。フランスとイギリスは2040年にガソリン車の発売を禁止することを決めました。また、2017年9月15日にカルロス・ゴーンさんがパリで記者会見を開いて、2022年にルノー・日産・三菱自動車連合は電気自動車への転換を前倒しすると言いました。特に三菱自動車に関しては、今のところは世界のほかのところでは持っていない家庭用電源から充電できる技術を持っています。

 

こうした一連の動きは何を意味するのでしょうか。中東でテロが起きるのはどうしてですか。これは中東から石油が潤沢に出て、そこから生まれる「オイルマネー」の一部がテロ組織に流れているからです。ヨーロッパが、ロシアの言うことを聞かざるを得ないのは、ヨーロッパがロシアの石油に依存しているからです。

 

もし、ここで自動車のガソリンエンジンや軽油・ディーゼルエンジンをなくしてしまえば、石油は主として航空燃料と兵器にしか使われなくなります。そうなると石油の需要ががたっと減って、値段もがたっと落ちます。そうすることによって、中東とロシアへの依存を減らすことができる。こういうヨーロッパの戦略なんです。

 

アメリカはシェールオイルが採れます。でも内燃機関(エンジン)を廃止すればそれも必要なくなる。その点で、これはヨーロッパのアメリカ離れでもあるんです。電気自動車への転換というのは、自動車業界だけの話ではなくてもっと大きな大変な話なんです。中国も石油がないから、電気自動車への転換の流れに乗ることになるでしょう。そうすると、中国マーケットをにらんだ上でも、電気自動車への転換は加速するでしょう。

 

あともう一つ、おそらく20年後には人間は自動車を運転させてもらえなくなるでしょう。人間よりもAI(人工知能)による自動運転の方がはるかに事故が少なくなるからです。AIによる自動運転は、内燃機関(エンジン)と結合するよりも、制御する上で電気モーターの方が相性がいいんです。そういったさまざまな要因からしても、電気自動車への転換は構造的に不可避だと思います。

 

日本政府はこういう深刻な問題に関する産業の構造転換について、日本の産業を保全して、この分野をきちんと守るといったことができていないんです。東芝の破綻処理の件で私は本当に強いショックを受けているんです。半導体は国家そのものと言っていいくらいのものだと思いますが、それを本気で守ろうとはしていなかった。バブル崩壊期の金融機関へのお金の投入を考えれば、今回の件は大きいものではない。数千億円の貸付で済むものに対してなんでこんなに冷たいのかと、私は非常に強い違和感を持っています。

作家、元外務省主任分析官

1960年東京都生まれ。大宮市(当時)で高校卒業まで育つ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論について学び、特にチェコの神学者、ヨセフ・ルクル・フロマートカに興味を持つ。85年外務省に入省。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)として対ロシア外交の最前線で活躍。外交官としての勤務のかたわら、モスクワ大学哲学部の講師(弁証法神学)や東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)も務めた。2002年5月、鈴木宗男事件に絡む疑惑をうけて、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2005年に執行猶予付き有罪判決。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定(懲役2年6カ月、執行猶予4年)で外務省を失職。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

著者紹介

連載佐藤優の地政学リスク講座~米朝開戦の可能性

本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

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