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北朝鮮の核問題 改めて問われる日米間の信頼関係

今回は、北朝鮮の核問題を巡り、改めて問われる日米間の信頼関係について取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

核兵器開発、運用の困難

前回の続きです。

 

話を戻します。では、そういう状況の中、日本政府がもし「核武装をしたいので原爆を持ちます」と言ったら、その瞬間に、日本はアメリカとの原子力協定があるから原発に使っているウランを全部アメリカに返さなくてはいけなくなります。そうしたら日本はその瞬間に2割のエネルギーを失います。2割の電気がなくなったらどうなりますか。産業崩壊です。だからその点からも日本が核武装することは現実的ではない。

 

ただし、中東あたりに核保有国がたくさん出てきて、「核ドミノ」が起きたらNPT体制は崩壊します。ブラジルもアルゼンチンも核兵器をつくる。台湾、韓国が核開発を始める。こういう状態になったら、日本も核兵器をつくることができるようになるかもしれませんが。

 

では、仮にそうなったとして、原料となるウランをどこから調達しますか?日本国内では足りない。人形峠にあったウランは戦後、技術開発で全部使ってしまった。ちなみに北朝鮮はウランがザックザック出てきます。だから制裁をかけても核爆弾がつくれるわけです。ウランは神様が偏った形で配置したのですね(笑)。

 

でも、これも何とかなるんです。ウランを手に入れることはできる。ニジェールから買えばいい。ニジェールはあまり資源がない国ですが、ウランだけはザックザック採れる。だから、フランス軍がニジェールに入って、ニジェールの部族紛争とか「イスラム国」系のテロ組織のボスを徹底弾圧しているんです。ウランを持ち出される危険があるからです。

 

それでニジェールから日本にウランが入ってきたら、どの都道府県で核実験をしますか。どこか受けてくれるところがあるでしょうか? 土地が広いから北海道でやろうといったって、高橋はるみ知事は反対するでしょうし、議席はなくても鈴木宗男さんだって大暴れするでしょう(笑)。その場合は、どこかの国にお金を払って、尊敬はされないけれども、核実験はできるかもしれない。

 

ではその次。仮に核兵器が完成したとして、どこの自衛隊基地に核兵器を配置しますか。受け入れるという基地や都道府県はあるでしょうか。しかし、それは心配しなくていいんです。

 

イギリスとフランスの核兵器が置いてある地上の基地ってどれぐらいあると思いますか?実は一つもないんです。どうしてだと思いますか?「抑止力」という言葉があるでしょう。これは何かといったら、お互いの陣地に銃を向けて引き金に指をかけている状態です。相手が撃ったらその瞬間にこっちも撃ってやるという状態。互いに怖くて撃てない均衡を保つということです。

 

しかし、小さい国ではこうした抑止力のあり方はあまり意味がないんです。フランスもイギリスも国土が狭い。だから、核攻撃を受けた時は1度の攻撃で、国家が完全になくなってしまう可能性がある。

 

日本も狭いから1度の核攻撃で相当な打撃を受けて、反撃できないかもしれません。

 

そういうことをさせない形で抑止力を持つ方法はたった一つしかない。SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)です。

 

だから潜水艦を持つしかない。フランスもイギリスも潜水艦に核兵器を搭載しているんです。そのために原子力潜水艦が必要です。大体1年半ぐらいは最低限、海底に潜っている性能がないといけない。日本の潜水艦はとても優秀だけど、1年半は潜っていられない。それからそもそもミサイルの発射装置がない。今から開発しても、北朝鮮の脅威に間に合わない。

「非核三原則」の見直しもだめ

そこで出てくるのが「非核三原則」の見直しという考え方です。

 

核兵器を持たない、つくらない、持ち込ませない、これが非核三原則です。このうちの「持ち込ませない」を外して、アメリカの核兵器を持ち込めるようにする。それによって日本の抑止力を強化するという考え方です。

 

しかし、これも成り立たない。どうしてかというと、アメリカは自国の核兵器がどこに配置されているかについて照会しても確認しないし、否定もしない。これがアメリカの核抑止政策の根本だからです。

 

そもそも、日本には非核三原則があるといったって、もしかしたら今も横須賀の格納庫の中には核爆弾があるかもしれません。日本に寄港する米原子力潜水艦には核ミサイルが搭載されているかもしれません。逆に、日本が非核三原則を改めて、日本に核を持ってきてくださいと言っても、持ってこない可能性だってある。

 

そうすると、実際に日本の核抑止力を強めるためにやらないといけないのは「核シェアリング」です。

 

日本の海上自衛隊の将校たちを米軍に送ってミサイルを撃てる技術的な能力を身につけさせる。同時に、首相官邸とホワイトハウスの両方に核のボタンを置いて、どちらがボタンを押しても核兵器が飛ぶようにする。そうすれば抑止はできる。しかし、アメリカが日本に核のボタンを渡すでしょうか。

 

もしトランプが今後、「北朝鮮との戦争は避ける。アメリカに北朝鮮の核兵器が来なければいい」と言ったとしましょう。ICBM(大陸間弾道ミサイル)さえ開発しないなら北朝鮮の核をアメリカは容認するということになれば、これは日本にとって大きな脅威です。

 

中距離弾道ミサイルは日本の全域に届くから、日本が核兵器の攻撃にさらされる状況になる。アメリカは「おれたちを信じろ。いざとなったら北朝鮮をやっつけてやるから」と言うでしょう。しかし、本当に信頼できるのか。日米同盟の根幹にかかわっている大問題が起きています。

作家、元外務省主任分析官

1960年東京都生まれ。大宮市(当時)で高校卒業まで育つ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論について学び、特にチェコの神学者、ヨセフ・ルクル・フロマートカに興味を持つ。85年外務省に入省。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)として対ロシア外交の最前線で活躍。外交官としての勤務のかたわら、モスクワ大学哲学部の講師(弁証法神学)や東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)も務めた。2002年5月、鈴木宗男事件に絡む疑惑をうけて、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2005年に執行猶予付き有罪判決。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定(懲役2年6カ月、執行猶予4年)で外務省を失職。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

著者紹介

連載佐藤優の地政学リスク講座~米朝開戦の可能性

本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

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