サリンはミサイルに搭載できる?
ちなみに、菅官房長官も安倍晋三総理も、高校の理科系の科目をしっかり学んだのかどうか、少し疑問が残ります。
北朝鮮が、猛毒のサリンをミサイルの弾頭に詰め込んで発射する可能性があるという話がありました。それが日本に着弾したら大変な被害になる。かつて、オウム真理教がサリンを作ってテロを起こしたくらいですから、実はサリンを作ること自体はそれほど難しくありません。中東の独裁国もサリンを作っています。しかし私は、中東の独裁国がミサイルにサリンを搭載して他国に向けて攻撃したなんて話を聞いたことがないんです。もしできるのであれば、もうやっているはずです。
サリンは化学物質です。化学物質は熱に弱い。ミサイルは打ち上げられると摩擦熱を持ちます。特に弾頭には1000度以上の熱が発生します。そうすると、サリンを弾頭に積んでいても、打ち上げた時はサリンだけど、着弾する時は無害なものになっているわけです。サリンに関しては高校理科の化学、ミサイルに関しては高校理科の物理程度の知識があればこういったことは分かる。
だから、サリンがミサイルに搭載されるなんて、訳の分からない情報が仮に耳に入ったとしても、それを記者会見で言うというのはかなり恰好悪いことです。しかも、記者もそれについて何も聞かなかった。「総理、お尋ねします。北朝鮮は耐熱性サリンを開発したと認識してるんですか。あるいは、魔法瓶のように、熱を遮断する新型の弾頭を北朝鮮は発明したんでしょうか」、こう尋ねるべきだったんですよ。
ミサイルより大きな問題は核開発
恐れる必要のないことは全く恐れる必要はありませんが、恐れるべきことは正しく恐れるべきです。ミサイルよりも核問題の方がはるかに重要です。
9月3日の北朝鮮の核実験に関して、日本はおとなしかった。8月29日の北朝鮮のミサイル発射について日本は「最高レベルの抗議」をしたでしょう。9月3日の核実験にも「最高レベルの抗議」をして、9月15日のミサイル発射でも「最高レベルの抗議」をして、すでに「最高」が三つある。「最高」という言葉は本当に1回だけ限定的に使わないと効果がないので、日本が言っていることはいつでも全部最高だな、という話になってしまう。
9月3日の核実験について、当初、防衛省は判断を間違えました。規模について「60キロトンから70キロトン」と言っていました。その後に修正して最終的に「160キロトン」となった。
ところが、気象庁は正しかった。地震津波監視課長の会見、これが重要だったと思います。
ちなみにNSC(国家安全保障局)に気象庁長官が入っていないというのは不思議なことです。地震調査によって、ひそかに核実験をやっている国を調べることが重要です。地震調査は各国においては、軍隊にもつながっている仕事なんです。
それで、気象庁の課長による会見はどういう内容だったか。「北朝鮮で地震がありました。震源は深さゼロメートル。波動は自然の活断層の動きではありません。前回、前々回の北朝鮮が行った核実験と場所が一致しています。推定のマグニチュードは6・1、震源での震度は震度6弱。エネルギーは前回、前々回の約10倍」と説明しました。
前回の核実験の規模は大体12キロトンぐらいだから、それに10を掛ければ120キロトン。だから、60キロトンとか70キロトンという防衛省の推定よりも正確でした。160キロトンの原爆か水爆かどうかは判断できません。ただし広島の原爆(15キロトン)の約10倍ではある。9月3日に実験した爆弾をもし都心の上空で爆発させたらどれぐらい人が死ぬと思いますか?
東京で200万人から300万人が死にます。これぐらいの能力を北朝鮮はすでに持っているということです。
しかも、もしその核爆発が水爆によるものだとしても、北朝鮮は持っている力の全てを実験していません。なぜなら核融合を全部行ったら、北朝鮮の5分の1ぐらいは吹っ飛んでしまうからです。だから今回の実験は、160キロトンだったけれども、実際の能力としてはメガトン級の可能性がある。
もしメガトン級の水爆を都心上空で爆発させたら、東京は完全に壊滅です。死者が700万人から800万人以上は出るでしょう。そして生き残った人も重度の放射線障害で、その後、苦しむことになる。こういう核兵器を北朝鮮は持ってしまった。だから世界中の国々が「北朝鮮に制裁を加えないといけない」と言い出したわけです。
日本の報道を見ていると、ミサイルが北朝鮮制裁の原因のように思えるけれども、ミサイルは何も関係ない。むしろ核実験が大変なことです。