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日本人が本当に警戒すべき、北朝鮮の「核開発」問題

今回は、日本人が本当に警戒すべき、北朝鮮の「核開発」問題について見ていきます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

サリンはミサイルに搭載できる?

ちなみに、菅官房長官も安倍晋三総理も、高校の理科系の科目をしっかり学んだのかどうか、少し疑問が残ります。

 

北朝鮮が、猛毒のサリンをミサイルの弾頭に詰め込んで発射する可能性があるという話がありました。それが日本に着弾したら大変な被害になる。かつて、オウム真理教がサリンを作ってテロを起こしたくらいですから、実はサリンを作ること自体はそれほど難しくありません。中東の独裁国もサリンを作っています。しかし私は、中東の独裁国がミサイルにサリンを搭載して他国に向けて攻撃したなんて話を聞いたことがないんです。もしできるのであれば、もうやっているはずです。

 

サリンは化学物質です。化学物質は熱に弱い。ミサイルは打ち上げられると摩擦熱を持ちます。特に弾頭には1000度以上の熱が発生します。そうすると、サリンを弾頭に積んでいても、打ち上げた時はサリンだけど、着弾する時は無害なものになっているわけです。サリンに関しては高校理科の化学、ミサイルに関しては高校理科の物理程度の知識があればこういったことは分かる。

 

だから、サリンがミサイルに搭載されるなんて、訳の分からない情報が仮に耳に入ったとしても、それを記者会見で言うというのはかなり恰好悪いことです。しかも、記者もそれについて何も聞かなかった。「総理、お尋ねします。北朝鮮は耐熱性サリンを開発したと認識してるんですか。あるいは、魔法瓶のように、熱を遮断する新型の弾頭を北朝鮮は発明したんでしょうか」、こう尋ねるべきだったんですよ。

ミサイルより大きな問題は核開発

恐れる必要のないことは全く恐れる必要はありませんが、恐れるべきことは正しく恐れるべきです。ミサイルよりも核問題の方がはるかに重要です。

 

9月3日の北朝鮮の核実験に関して、日本はおとなしかった。8月29日の北朝鮮のミサイル発射について日本は「最高レベルの抗議」をしたでしょう。9月3日の核実験にも「最高レベルの抗議」をして、9月15日のミサイル発射でも「最高レベルの抗議」をして、すでに「最高」が三つある。「最高」という言葉は本当に1回だけ限定的に使わないと効果がないので、日本が言っていることはいつでも全部最高だな、という話になってしまう。

 

9月3日の核実験について、当初、防衛省は判断を間違えました。規模について「60キロトンから70キロトン」と言っていました。その後に修正して最終的に「160キロトン」となった。

 

ところが、気象庁は正しかった。地震津波監視課長の会見、これが重要だったと思います。

 

ちなみにNSC(国家安全保障局)に気象庁長官が入っていないというのは不思議なことです。地震調査によって、ひそかに核実験をやっている国を調べることが重要です。地震調査は各国においては、軍隊にもつながっている仕事なんです。

 

それで、気象庁の課長による会見はどういう内容だったか。「北朝鮮で地震がありました。震源は深さゼロメートル。波動は自然の活断層の動きではありません。前回、前々回の北朝鮮が行った核実験と場所が一致しています。推定のマグニチュードは6・1、震源での震度は震度6弱。エネルギーは前回、前々回の約10倍」と説明しました。

 

前回の核実験の規模は大体12キロトンぐらいだから、それに10を掛ければ120キロトン。だから、60キロトンとか70キロトンという防衛省の推定よりも正確でした。160キロトンの原爆か水爆かどうかは判断できません。ただし広島の原爆(15キロトン)の約10倍ではある。9月3日に実験した爆弾をもし都心の上空で爆発させたらどれぐらい人が死ぬと思いますか?

 

東京で200万人から300万人が死にます。これぐらいの能力を北朝鮮はすでに持っているということです。

 

しかも、もしその核爆発が水爆によるものだとしても、北朝鮮は持っている力の全てを実験していません。なぜなら核融合を全部行ったら、北朝鮮の5分の1ぐらいは吹っ飛んでしまうからです。だから今回の実験は、160キロトンだったけれども、実際の能力としてはメガトン級の可能性がある。

 

もしメガトン級の水爆を都心上空で爆発させたら、東京は完全に壊滅です。死者が700万人から800万人以上は出るでしょう。そして生き残った人も重度の放射線障害で、その後、苦しむことになる。こういう核兵器を北朝鮮は持ってしまった。だから世界中の国々が「北朝鮮に制裁を加えないといけない」と言い出したわけです。

 

日本の報道を見ていると、ミサイルが北朝鮮制裁の原因のように思えるけれども、ミサイルは何も関係ない。むしろ核実験が大変なことです。

作家、元外務省主任分析官

1960年東京都生まれ。大宮市(当時)で高校卒業まで育つ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論について学び、特にチェコの神学者、ヨセフ・ルクル・フロマートカに興味を持つ。85年外務省に入省。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)として対ロシア外交の最前線で活躍。外交官としての勤務のかたわら、モスクワ大学哲学部の講師(弁証法神学)や東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)も務めた。2002年5月、鈴木宗男事件に絡む疑惑をうけて、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2005年に執行猶予付き有罪判決。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定(懲役2年6カ月、執行猶予4年)で外務省を失職。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

著者紹介

連載佐藤優の地政学リスク講座~米朝開戦の可能性

本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

一触即発の世界はいつまで続くのか。 佐藤優が北朝鮮問題に切り込んだ本書の内容をQ&Aで紹介します。(本書の内容を構成しました。「…」部分は本書で) Q 米朝開戦の可能性は! ? 佐藤優 危機は高まってきている。5軒先でボ…

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