先鋭化する米朝関係、日本に求められる対応とは?

今回は、米朝関係が先鋭化するなかで、日本に求められる対応を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

求愛を恫喝で表す金正恩

前回の続きです。

 

さて、おさらいをしましょう。米朝関係は、トランプ大統領が誕生した2016年秋から、急に先鋭化してきました。

 

実は、トランプと金正恩は「似た者同士」です。磁石のN極とN極が反発するみたいな関係。でも同時に、金正恩からするとトランプは気になる存在なんです。

 

「おれ、弾道ミサイル飛ばすからな」と2017年1月1日に金正恩が恒例の年頭演説で言いました。そうしたら翌日、「それはできねえぜ」とトランプがツイッターに書いた。もう金正恩はうれしくてしようがない。「反応してくれた。これは脈がある。チャンスだ」と思った。それで「付き合いたい。仲良くしたい」と言って、ミサイルを打ち上げ、核実験をしている。あれは「求愛行動」なんです(笑)。

 

小学校の教室にいる悪ガキを考えてみてください。クラスメートのかわいい女の子と仲良くなりたいと思って、まず消しゴムを投げる。でも、振り向いてくれない。その次に何をするかというと、紙飛行機に画鋲をつけて女の子に投げるわけ。画鋲が刺さったらケガをするし痛い。でも、それで振り向いてくれたら、変な縁ができるから投げる。こういうことを金正恩はトランプに対してしているんです。

 

「求愛を恫喝で表す」というのが北朝鮮の文化なんです。それである日、女の子の家の前にバキュームカーを乗り付けるわけ。そのホースを持って金正恩は立っている。「おれと付き合ってくれないなら、今からこのホースで汚物をばらまくからな」。しかし、このバキュームカーが本当に稼働するのか、中にそもそも汚物が入っているのか、それは誰にも分からない。

 

オバマ大統領の時代は、「どうせ中に汚物は入っていない」という認識だった。この場合の汚物というのは核兵器のことで、「バキュームカーはちゃんと動かない」というのは、弾道ミサイルのことです。そもそも、オバマ大統領の時は、金正恩が「付き合ってほしい」と何度も言ったんだけど、完全に無視していたんです。

日米の利害は異なる

2017年末現在の状況は、野球でいうと3回裏で、北朝鮮が5点入れて、ノーアウト満塁というところです。この回は早く切り抜けた方がいい。4回の表に行って体制を立て直して、そこで核抑止をしていくことが、今は大切です。

 

ただし、2017年11月のトランプ大統領来日の際の安倍総理のやり方などを見ていて、ちょっと心配なのは、トランプとの関係を良くするということで、ゴルフをしたりごはんを食べたりして仲良くなっているけれども、トランプと仲良くなり過ぎて大丈夫なのでしょうか。

 

そもそも、トランプは、日本国憲法がどういう立て付けになっているか深くは知らないでしょうし、朝鮮半島をかつて日本が植民地化していたという歴史的な事実の意味もよく分かっていないと思います。

 

それで、安倍総理に直接、「シンゾー、圧力をかけるぞ。北朝鮮に対してはあらゆる選択肢を排除しない。Let's go together!(一緒にやろうぜ)」と、もしトランプ大統領が言ったら、どうします? 安倍総理が、「ドナルド、日本は北朝鮮空爆できないんだ」と言ったら、トランプ大統領は、むっとして、「シンゾー、一緒にやらんのか」という感じになるでしょう。

 

いくら「日米は価値観が一緒で、利益も一緒だ」といったって、価値観は一緒だけども、利害関係は違うんです。地政学的状況が違う。

 

韓国は距離的には北朝鮮に近い。そして韓国は北朝鮮の核ミサイルを心配していません。「同胞を殺すはずはない」という安心感を持っているからです。韓国と北朝鮮はナショナリズムが共通しています。しかし、日本と韓国では政治の要素が違うのです。

 

日本とアメリカとの違いは地理的に朝鮮半島に近いか遠いかということです。北朝鮮がミサイルを撃ったら12分で東京に届きます。

 

ちなみに高高度防衛ミサイル(THAAD)で飛んできたミサイルを落とせるかといったら、「防御率8割程度」といわれていて、これではだめです。だって、もし10個の核爆弾を撃ってきて8個落とせましたといっても、2個はこちらで爆発するということなんですから。これでは防御にならない。この暗い状況を正確に認識しないといけないんです。

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    作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授(学長特別顧問、東京担当)

    1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、専門職員として外務省に入省。
    在イギリス大使館勤務、在ロシア大使館勤務を経て、外務省国際情報局で主任分析官として活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、09年6月に執行猶予付き有罪確定(13年6月に執行猶予期間が満了し、刑の言い渡しが効力を失った)。
    著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞)、『池田大作研究 世界宗教への道を追う』、『対決!日本史 戦国から鎖国篇』など多数。20年12月、菊池寛賞(日本文学振興会主催)を受賞。同志社大学神学部客員教授も務める。

    著者紹介

    連載佐藤優の地政学リスク講座~米朝開戦の可能性

    本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

    佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

    佐藤優

    時事通信出版局

    一触即発の世界はいつまで続くのか。 佐藤優が北朝鮮問題に切り込んだ本書の内容をQ&Aで紹介します。(本書の内容を構成しました。「…」部分は本書で) Q 米朝開戦の可能性は⁉︎ 佐藤優 危機は高まってきている。5軒先でボ…

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