求愛を恫喝で表す金正恩
前回の続きです。
さて、おさらいをしましょう。米朝関係は、トランプ大統領が誕生した2016年秋から、急に先鋭化してきました。
実は、トランプと金正恩は「似た者同士」です。磁石のN極とN極が反発するみたいな関係。でも同時に、金正恩からするとトランプは気になる存在なんです。
「おれ、弾道ミサイル飛ばすからな」と2017年1月1日に金正恩が恒例の年頭演説で言いました。そうしたら翌日、「それはできねえぜ」とトランプがツイッターに書いた。もう金正恩はうれしくてしようがない。「反応してくれた。これは脈がある。チャンスだ」と思った。それで「付き合いたい。仲良くしたい」と言って、ミサイルを打ち上げ、核実験をしている。あれは「求愛行動」なんです(笑)。
小学校の教室にいる悪ガキを考えてみてください。クラスメートのかわいい女の子と仲良くなりたいと思って、まず消しゴムを投げる。でも、振り向いてくれない。その次に何をするかというと、紙飛行機に画鋲をつけて女の子に投げるわけ。画鋲が刺さったらケガをするし痛い。でも、それで振り向いてくれたら、変な縁ができるから投げる。こういうことを金正恩はトランプに対してしているんです。
「求愛を恫喝で表す」というのが北朝鮮の文化なんです。それである日、女の子の家の前にバキュームカーを乗り付けるわけ。そのホースを持って金正恩は立っている。「おれと付き合ってくれないなら、今からこのホースで汚物をばらまくからな」。しかし、このバキュームカーが本当に稼働するのか、中にそもそも汚物が入っているのか、それは誰にも分からない。
オバマ大統領の時代は、「どうせ中に汚物は入っていない」という認識だった。この場合の汚物というのは核兵器のことで、「バキュームカーはちゃんと動かない」というのは、弾道ミサイルのことです。そもそも、オバマ大統領の時は、金正恩が「付き合ってほしい」と何度も言ったんだけど、完全に無視していたんです。
日米の利害は異なる
2017年末現在の状況は、野球でいうと3回裏で、北朝鮮が5点入れて、ノーアウト満塁というところです。この回は早く切り抜けた方がいい。4回の表に行って体制を立て直して、そこで核抑止をしていくことが、今は大切です。
ただし、2017年11月のトランプ大統領来日の際の安倍総理のやり方などを見ていて、ちょっと心配なのは、トランプとの関係を良くするということで、ゴルフをしたりごはんを食べたりして仲良くなっているけれども、トランプと仲良くなり過ぎて大丈夫なのでしょうか。
そもそも、トランプは、日本国憲法がどういう立て付けになっているか深くは知らないでしょうし、朝鮮半島をかつて日本が植民地化していたという歴史的な事実の意味もよく分かっていないと思います。
それで、安倍総理に直接、「シンゾー、圧力をかけるぞ。北朝鮮に対してはあらゆる選択肢を排除しない。Let's go together!(一緒にやろうぜ)」と、もしトランプ大統領が言ったら、どうします? 安倍総理が、「ドナルド、日本は北朝鮮空爆できないんだ」と言ったら、トランプ大統領は、むっとして、「シンゾー、一緒にやらんのか」という感じになるでしょう。
いくら「日米は価値観が一緒で、利益も一緒だ」といったって、価値観は一緒だけども、利害関係は違うんです。地政学的状況が違う。
韓国は距離的には北朝鮮に近い。そして韓国は北朝鮮の核ミサイルを心配していません。「同胞を殺すはずはない」という安心感を持っているからです。韓国と北朝鮮はナショナリズムが共通しています。しかし、日本と韓国では政治の要素が違うのです。
日本とアメリカとの違いは地理的に朝鮮半島に近いか遠いかということです。北朝鮮がミサイルを撃ったら12分で東京に届きます。
ちなみに高高度防衛ミサイル(THAAD)で飛んできたミサイルを落とせるかといったら、「防御率8割程度」といわれていて、これではだめです。だって、もし10個の核爆弾を撃ってきて8個落とせましたといっても、2個はこちらで爆発するということなんですから。これでは防御にならない。この暗い状況を正確に認識しないといけないんです。