今回は、北朝鮮のミサイル問題で浮き彫りになった「日本の不思議」について取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

北朝鮮ミサイル発射の正当な評価

北朝鮮のミサイルについて、各社報道では「上空」を飛んだと書いていました。北朝鮮のミサイルが飛んだ高度は8月29日が550キロメートル。9月15日が800キロメートル。これは領空侵犯などとは全然関係ない。550キロだったら、今この瞬間だって、日本の上に何十個もの人工衛星が飛んでいます。こんなことで騒いだらいけないんです。

 

北朝鮮は確かに悪い国です。しかし、8月29日のミサイル発射によって、その悪さがどの程度変化したのでしょうか。

 

1番目。国連安保理決議には違反している。ミサイルもロケットも発射してはいけないのですから。しかし、それは以前から違反しているわけで、今回のミサイル発射による変化はない。

 

2番目。ミサイル発射前に「危険水域の設定をしなかった」という国際法違反の可能性がある。どの国もミサイルは打ち上げていい。ただし、そのときにあらかじめ決められている周波数があって、その周波数で「何月何日、北緯何度東経何度を中心にする200キロ以内に、何時から何時まで立ち入らないように」という無線連絡をするんです。それを日本では海上保安庁が24時間ずっと確認している。もし何か傍受した場合は、航行警報を出す。「何月何日、どこどこの国が危険水域の設定をこの地域に行う。そこには漁船も客船も貨物船も立ち入らないように」という連絡をするんです。今回はそれをやっていない。

日本だけが騒いでいる

菅義偉官房長官や小野寺防衛大臣の発表では「1180キロメートルの太平洋上に落下したものと推定いたします」「2200キロメートルの太平洋上に落下したものと推定されます」、こういう言い方をしていました。いずれも「推定」という言葉なんです。

 

でも、日本の人工衛星の追跡技術あるいは赤外線追跡技術は、海に落ちたか落ちないか確認できないほどレベルは低くはないと思います。また、アメリカも確認をしていたと思いますが、赤外線追跡技術もレベルは低くないと思います。私は、この「推定」という言葉にひっかかるんです。

 

どうしてかというと、ロケットを打ち上げて、それが大気圏再突入の際に燃えてしまうような実験だったら、危険水域の設定はしなくていい。北朝鮮の今回程度のロケットだったら、燃え尽きてしまう可能性は十分にある。でもそうなったら、そもそも国際法違反ではなくなります。

 

3番目。「領空侵犯があったのかどうか」。これまで確認してきた通り、これはない。

 

そうしたら今までと何も違わないじゃないですか。それなのに、なんでこんなに騒ぐのか。

 

だから、今回の件について、国際社会は日本のことをとても変な国だと思ったわけです。これまでと特に何も変わらないのに騒いでいるから。まあ、日本の上を北朝鮮のミサイルが飛んでいることが危険だということが、日本国民に周知されて、よく理解されることになったのは、よかったことかもしれませんが。

 

要するに、今回のことに関しては、何も今までと変化はないのに、日本だけ、天地がひっくり返ったような大騒ぎをしている。そういうことなんです。

本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

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