今回は、朝鮮半島有事に対する外務省や防衛省のシミュレーション等について見ていきます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

ソウルは2日で陥落、反撃2カ月で北を制圧

ある元外務省最高幹部の方から聞いた話です。外務省や防衛省は、朝鮮半島有事のシミュレーションをしています。そこでどういった結果が出たか。

 

「北朝鮮が先制攻撃したら韓国のソウルは2日で落ちる。まずそこで韓国内の35万人が死ぬ。そしてその後、反撃をして2カ月でアメリカと韓国が北朝鮮全域を制圧する。その時の死者はざっくり見積もっても200万人以上になる」

 

200万人の死者というのはどういう規模かというと、太平洋戦争で亡くなった日本人の数を基準に考えると分かります。先の大戦で、日本陸軍と日本海軍で戦死ないしは病死、餓死も含めると大体230万人の兵士が亡くなっていると言われています。それに広島、長崎の原爆による被害者、東京大空襲や沖縄の地上戦等で犠牲になった民間人が80万人います。合わせて大体310万人。

 

朝鮮半島で次の戦争が起きた場合、太平洋戦争での日本の死者と同じ規模の大勢の人たちが朝鮮半島で死ぬということなんです。これは相当な話です。

 

日本国内だって例外ではありません。2016年6月から、北朝鮮の海外向けラジオ放送である平壌放送では、すべての番組の終了後、数字の読み上げが始まっています。これは、忍者で言うところの「草」という、日本の中に深く潜入している工作員、テロリストに対する指令です。これは暗号を幾ら傍受しても解読することができないんです。どうしてかというと、すごく古典的なやり方だからです。

 

例えば、昭和37年版の岩波文庫の夏目漱石『吾輩は猫である』といった本をまず指定しておいて、「63ページの右から2行目の上から3文字目」、そういう文字を指定する暗号を数字で指令します。それをつなぎ合わせると例えば、「横田基地を襲撃しろ」といった言葉になるという形なんです。

 

だから、暗号を読み解くための元本が特定できないと、全然解読できない。だから仮に米朝開戦となったら、日本国内でも何かが起きて、最低でも数千人は死ぬ可能性が考えられる。そういう状況にあるんです。

朝鮮戦争は「誰と誰が戦った」戦争なのか?

ちなみにトランプ大統領は、初来日となった2017年11月5日午前、米軍横田基地に大統領専用機で到着しました。そして、そこで演説をして、「暴君が進む道は、必ずや貧困と苦痛と隷属に続くということを歴史が繰り返し証明している」と北朝鮮を挑発しました。この演説を横田基地でやったことには特別の意味があるんです

 

朝鮮戦争は誰と誰が戦った戦争でしょうか。アメリカと北朝鮮ではありません。朝鮮国連軍と北朝鮮軍・中国人民解放軍が戦ったんです。そこに韓国軍が加わったんです。

 

ちなみに「朝鮮戦争休戦協定」というものがあります。この「朝鮮戦争休戦協定」に署名しているのは、朝鮮国連軍、中国人民解放軍、北朝鮮軍、この三つだけで、韓国軍は入っていません。だから韓国は今も当事者ではないんです。どうしてか。この協定を調印した場所は板門店ですが、ここに韓国側が行きたくなかったからなんです。

 

板門店は戦争が始まるまで韓国領でした。北朝鮮と韓国を分けていた38度線より南側にあったんです。それで、李承晩・韓国大統領は、板門店は北朝鮮に取られた場所であって、そんな負けてしまった場所に行って署名をしたくなかった。だから韓国は調印していません。

 

ちなみに朝鮮半島は国際法的に見ると、いまだに戦争が続いている状態です。停戦に合意しただけで、平和はまだ訪れていない。この「朝鮮戦争休戦協定」に違反したら、いつでも実際の戦争が始まります。北朝鮮が攻めてきたら、戦争はまた始まるんです。

 

ちなみに、「朝鮮戦争休戦協定」には「北朝鮮はミサイルをつくってはいけない」とか「核兵器をつくってはいけない」とか書いてありません。だから、核兵器をつくってもミサイルをつくっても、「朝鮮戦争休戦協定」違反にはなりません

 

朝鮮国連軍というのは、1950年6月25日に朝鮮戦争が始まり、その2日後の27日に国連安保理決議第83号、国連安保理決議第84号に基づいて、「武力攻撃を撃退し、かつこの地域における国際の平和と安全を回復することを目的として」つくられたものです。

本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

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