昨年12月、連邦議会で税制改革法案が可決した米国。この税制改革を受け、2018年の米国金融政策の見通しはどうなるのか、今後注目すべき点を解説する。

FRB幹部の中でも意見が分かれる「利上げ」の是非

前回の続きです。

 

2018年の米国金融政策は、なかなか難しい判断を迫られるのではないかと筆者は推測する。今回の米国政策金利上げの局面は、2015年12月に始まり既に5回を数える。米連邦準備理事会(FRB)は、昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表した政策見通しで18年に25ベーシス・ポイント(bp)の利上げをさらに3回行うとの見通しを示している。3回の利上げは、現時点での市場の予想を上回っている。

 

 

前述の通り、税制改革も実施され、追加的な投資も検討される中、短期金利が市場の予想より上昇するというシナリオも、思い描いておく必要があるだろう。

 

FRBは、2015年12月に始まる5回の利上げを緩和的な金融政策のスタンスから中立的なところに戻すという説明に終始してきたが、何より2018年も同様の「中立的な政策」との説明では済まなくなるだろう。FRB幹部のなかでも、意見は対立している。2017年12月のFOMCでは、利上げを決定したものの、投票権を持つミネアポリス地区連銀総裁とシカゴ地区連銀総裁の二人は、足元のインフレ指標の弱さを理由に利上げに反対票を投じたことが判明している。

 

一方、一部のFRB幹部は、税制改革法案の導入によって経済成長が上向き、景気の過熱を招く可能性があると考えれば、利上げは正当化できると考えている。景気後退期に入ったときの金融政策の発動余地を確保するために、景気がしっかりしているうちに金利水準の引き上げとFRBのバランスシートの圧縮を出来るだけやっておきたいということもあるかもしれない。

市場関係者も首をひねるインフレ率の低迷

金利の先行きを不透明にしている要因は言うまでもなく二つである。ひとつは、適温経済(ゴルディロックスシナリオ)の下でインフレ低迷が続いているが、これが継続するかということ。それと、前述の通り、税制改革が景気に及ぼす影響である。

 

インフレ率が低い水準でとどまっていることは、いままでの経験則や経済学から説明がつかない。不可解だと考えている市場関係者は多い。エコノミストも、経済学者も、首をひねっているが、これと言う理由は聞こえてこない。

 

税制改革が景気に及ぼす影響については、イエレン議長は最終的な税制改革法案がまだ議会を通過していない12月13日の記者会見で、「税制改革は向こう数年間の経済活動を押し上げる可能性が高いが、マクロ経済にいつ、どれほどの影響が及ぶかは依然としてはっきりしない」と述べた。

 

さらに、こうした悩ましい問題に、資産価格の上昇という課題がのしかかる。2月にFRB新議長に就任するパウエル氏は、2012年にFRB理事に就任した際、FRBが債券を買い入れて資金供給を続ける政策が、将来的にリスクテークを煽りかねないとの懸念を同僚に示していた。

 

また2015年の講演でも、危険なリスクテークが再燃すれば、「いずれは金融政策引き締めが必要になるかもしれない」と述べている。昨年の講演では、さらに踏み込み、「極めて低い名目金利が長期化している現状には、強い警戒を要する」と話した。パウエル新議長の手腕が試されることになろうが、やはり、2018年のFRBの金融政策の舵取りは、相当に難しいものになるだろう。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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