今回は、離婚時の財産分与における「対象財産」抽出の重要性について説明します。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

金額確定のために「基準となる日付」を区切る

本連載では、財産分与の対象となる財産とそうでない財産とを区別する段階で発生する論点について取り上げる。基準時の問題、特有財産の区別、第三者名義の財産の取扱いなどである。

 

◆対象財産の抽出が必要となる理由

 

1 前提

 

清算的財産分与の対象となる財産は、①婚姻期間中(別居前)に②夫婦が協働して形成した財産である。

 

2 期間の画定

 

まず、婚姻期間中(別居前)という形成期間を区切る理由は、夫婦が財産を協働して形成したといえる期間は同居期間中であり、別居後は通常、夫婦の協力関係が失われているため、別居後の財産の増減は各人に帰すべきだからである。また、財産(特に流動資産)の中身は日々変動するため、どこか基準となる日付を区切らなければ金額が確定できない。

 

そのため、分与対象財産確定の基準時を決め、その時点に存在した財産をリストアップする作業が最初に行われる。基準時は原則として別居時とされる。夫婦関係が破綻し、協力して財産を形成することがなくなる時点は、一般的に別居時といえるからである。

 

このとき、別居時が明白であり夫婦間で争いがなければよいが、例えば単身赴任に引き続いて破綻した例、別居していない例などにおいて基準時をどうするか争いとなる。

 

また、基準時自体には争いがなくても、その直前・直後に大幅な財産の変動が生じている場合に、その変動分の扱いが問題となる。別居直前に多額の預金引出しがなされている例や、別居直後に配偶者の預金を引き出している例などがある。退職金に関しては、基準時に存在したといえるか争われることもある。

財産分与の対象となる「共有財産」、ならない「特有財産」

3 名義の問題

 

夫婦が協働して形成した財産が夫婦以外の名義となっている場合や、夫婦名義で存在する財産が実質的には第三者の所有等に属するという場合、その財産が分与対象となるか否かの認定が必要となる。ここにおいては、実質的出捐者や管理者が誰であるのか、出捐者や管理者と名義を異にした理由、使途・目的等が問題となる。

 

4 原資の区別

 

最後に、基準時に存在する財産の中で、財産分与の対象となるものとそうでないものを区別する作業が必要となる。婚姻前から保有していた財産、婚姻中に相続や贈与等で得た財産などは夫婦が協働して形成したものではないため、対象から除外する必要がある。財産分与の対象となる財産を「共有財産」、対象とならない財産を「特有財産」と呼ぶことが多い。

 

ここで共有財産と特有財産が明確に区別されて保管されていれば問題ないのであるが、実際には混在していることがほとんどであり、例えば預金から不動産などに形を変えている場合もある。そのため、ある財産又は金額が特有財産であると主張する者は、それが夫婦共同で得た収入(給与等)とは異なる原資からもたらされたことを立証する必要がある。

 

なお、民法上では夫婦別産制が建前であるが(民762①)、実務においては、原則として婚姻期間中に得た財産は名義を問わず夫婦の共有であると推定し(民762②)、特有財産であることを主張する側に立証責任が課される。

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

森 公任,森元 みのり

新日本法規出版

一筋縄ではいかない事件を柔軟に解決するために! ◆財産分与における実例を論点別に分析し、考慮要素や計算方法、解決案などを整理しています。 ◆事例から導かれた、実務上の留意点を「POINT」として掲げることにより、…

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