今回は、「別居をせずに離婚した場合」の財産分与方法を説明します。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

離婚まで同居を続けても、基準時が離婚前になることも

④別居をせずに離婚した場合(離婚成立より前の時点を基準時とした例)

 

<POINT>

離婚成立まで同居を続けていたとしても、財産分与の基準時が離婚成立よりも前の時点であると判断される場合がある。

 

<事案の概要>

原告:夫(無職・60代前半)

被告:妻(会社員・60代前半)

 

① 原告と被告は、昭和53年に婚姻し、2子をもうけた。原告は、婚姻後、転勤による単身赴任を繰り返していた。

 

② 原告は、平成19年に役員となるため、従業員としては退職し、退職金約2,500万円を受け取った。原告は、退職金のうち1,000万円を、無断で引き出さないよう被告に言った上で、被告が管理する原告名義の預金口座に送金した。原告は、平成21年に最後の単身赴任を終え、平成22年以降、被告と同居するようになった。なお、原告は、平成24年に定年退職し、現在は無職である。

 

③ 同居後、原告と被告は、生活リズムの違い等から、間もなく寝室を別にし、食事や洗濯を各自で行うようになった。原被告間の会話は減り、連絡事項がある場合には、メモに書くなどして伝えていた。

 

④ 原告は、平成23年5月頃、被告に預けていた退職金1,000万円を返還するよう求めたが、被告は応じなかった。そのため、原告が、同口座を調べたところ、残高は5万円程度しかなかった。この頃から、原告と被告とは、口頭で言い争うほか、互いを非難する内容のメモを取り交わすようになった。被告は、平成24年10月から同年11月にかけて、原告の口座に400万円を入金して退職金の一部を返還したが、それ以上の支払は拒否した。

 

⑤ 原告は、夫婦間で話し合って問題を解決するのは難しいと考え、平成25年7月に夫婦関係調整(円満)調停を申し立てたが、平成26年1月、新たに夫婦関係調整(離婚)調停を申し立て、同年2月に円満調停は取り下げた。離婚調停は、同年3月に不成立となったため、原告は、同年6月に離婚及び財産分与を求め訴訟提起した。

 

⑥ 被告は、原告が円満調停を申し立てた平成25年7月以降、預金、証券及び保険などの資産を立て続けに現金化していた。

 

⑦ 原告は夫婦関係調整(円満)調停を申し立てた 平成25年7月が財産分与の基準時になると主張し、被告は同居が続いているため離婚時 が財産分与の基準時となると主張した。⑧ そのため、財産分与の基準時が争点となった。(参考:平成28年3月水戸家庭裁判所判決(【事例40】と同一事例))

原告が「円満調停を申し立てた日」が基準時となった例

<判決内容>

 

原告が円満調停を申し立てた平成25年7月の時点で、同居してはいるものの、原被告間の夫婦としての相互協力関係はほとんど失われており、実質的には相互の財産形成に寄与しない状態になっていたと認められる。

 

また、被告は、平成25年7月以降、当時保有していた金融資産の大部分を現金化して捕捉困難な状態にしたことが認められ、公平の観点からは、これらの財産のうち、夫婦共有財産と認められるものについては財産分与の対象とすべきである。

 

したがって、本件では、原告が円満調停を申し立てた平成25年7月を基準時とし、同日時点で存在した夫婦共有財産を財産分与の対象とするのが相当である。

 

この話は次回に続く。

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

森 公任,森元 みのり

新日本法規出版

一筋縄ではいかない事件を柔軟に解決するために! ◆財産分与における実例を論点別に分析し、考慮要素や計算方法、解決案などを整理しています。 ◆事例から導かれた、実務上の留意点を「POINT」として掲げることにより、…

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