争いがなければ、その時点を期日調書に録取する
◆対象財産抽出のプロセス
1 期間の画定
夫婦双方が分与対象財産確定の基準時について争いがない場合は、その時点を期日調書に録取する等して確認することが多い。基準時に争いのあるケースであれば、財産形成に関する夫婦の協力関係が終了したといえる時点について双方が主張立証する。関係する事情としては、物理的別居、家庭内別居の場合はその時期及び態様、別居後の交流の有無及び態様、調停申立時期及び調停の経過、家計管理方法の変更時期及び態様などが考えられよう。
基準時前後に大きな財産の変動がある場合には、基準時自体をずらすことはせず、別居直前に多額の預金引出しがある場合には対応する額が基準時に現金等として存在したものとみなす方法や、別居直後に配偶者の預金を引き出した場合には財産分与の一部を受領済みであるとみなす方法などにより、実質的公平性を確保することがある。
なお、退職金に関しては、婚姻期間中に形成する財産という側面がある一方で、実際に受け取る時期は離婚時より先の将来であることが多く、勤務先の経営状況や退職事由等によっては退職金が減額又はゼロとなる場合も考えられるため、基準時に存在したといえるか、争いが生じやすい。
この点に関しては、退職金の支給を受ける蓋然性が高い場合には財産分与の対象とするという判断がなされている。どのような場合に蓋然性が高いといえるのかの判断は容易でないが、勤務先の状況や当事者の勤続年数、退職金支給時期までの年数等が考慮される。
一般的には、退職金制度のある会社に勤務している場合であれば、勤続年数が極めて長期でもなく、定年まで期間があるときでも、財産分与の対象とされていることが多いように思われる。
祝い金、お年玉…扱いが難しい「子名義の財産」
2 名義の問題
夫婦以外の名義の財産が問題となる主な類型としては、子名義の財産が挙げられる。
子名義の財産は、親族や知人から子のためにいただいたお祝い金・お年玉などを入金していたり、夫婦が子の将来に備えて貯金していたりするものが大半である。
これが財産分与の対象となるか否かの判断においては、①原資が夫婦共同で得た収入であるか否か、②夫婦共同で得た収入を原資とするものであっても、子への贈与等、子に自由な処分を認める趣旨であったか否かが吟味される。
それ以外に、いわゆる名義預金として、夫婦以外の第三者(成人した子や親族等)の名義ではあるものの、原資が夫婦共有財産であり、口座開設や通帳・印鑑等の管理を夫婦のどちらかが行っていたものがあるようであれば、それも財産分与の対象となる可能性がある。
反対に、夫婦名義で存在する財産が実質的には夫婦の財産ではないという場合もある。親族がしている名義預金が典型である。これも実質的出捐者と管理処分の所在により財産分与の対象か否かを判断することになる。
自営業者の場合、個人事業主である当事者名義で存在する事業用資産の取扱い、法人名義で存在する財産の取扱いなどが争いとなる場合がある。事業の規模や財産管理状況等、実態に応じて判断されることとなろう。
この話は次回に続く。