今回は、日本の気候・地質学的特徴が「建築物の耐震性」に及ぼす影響を見ていきます。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とし、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、震災によって起こり得る最悪の事態を防ぐための知識を紹介していきます。

日本の建物が南北の揺れに「比較的強い」理由

熊本地震は1995年の阪神・淡路大震災と似た直下の活断層が引き起こした地震でした。阪神・淡路大震災でも周期1秒程度の揺れが多かったので、神戸中心部では古い木造住宅や、10階建てぐらいのビルが多く壊れました。中間階がグシャっとつぶれたビルや庁舎の映像が目に焼き付いている人も多いでしょう。

 

当時は今より耐震性の低い建物が多く、それらに対して苦手な周期の揺れが襲ったため、「震災の帯」と呼ばれる帯状の被害地域が現れました。この帯は淡路島から東北東方向に神戸の街を貫き、南北方向に大きな揺れを発生させました。だから被害は周期1秒前後で、南北の揺れに弱い建物で顕著でした。神戸を東西に走る高速道路も南北に揺れ、北側に横倒しになりました。

 

日本のマンションや学校の建物は、採光をとるため、たいてい南に面して東西に細長くなっています。部屋と部屋、教室と教室を仕切る壁は、南北方向です。壁は、壁と平行の揺れには強いのですが、直角の揺れには弱い。

 

つまり、日本の建物の多くは南北の揺れには比較的強く、東西の揺れにはそれほどではありません。神戸の地震は幸い南北の揺れが多かったので、学校の校舎などの被害は少なかったようです。

 

耐震性というのは建物の強さだけで考えていたらダメで、地盤との関係で決まる周期も考えなければいけません。よく聞く建築の常識も疑ってみる必要がありそうです。

(*実は、長く揺れる海溝型巨大地震と、パルス的に短く揺れる直下の活断層の地震とでは、建物の揺れ方も異なります。長く揺れる場合には、地盤の揺れと建物の揺れが一致したときに徐々に揺れが育っていく共振現象が、短い時間の揺れでは、活断層近傍の地盤の大きな変位による衝撃的な建物変形が問題になります。)

元来は「耐震目的」ではなかった基礎杭

ビルの基礎として地盤に打ち込まれている杭がよく使われます。2015年に横浜市のマンションで、杭打ちのデータが偽装されていたと大問題になりました。杭が地中の堅い地盤に届かず、マンション全体が傾いたと指摘されました。マンションの開発会社は当初、「東日本大震災の影響だ」と説明していたそうです。

 

その真偽はともかく、元来、ビルの基礎杭は耐震が主たる目的ではありませんでした。ビルの重さを支えて、建物が沈み傾いたり、地盤が壊れたりしないようにするのが主な役割です。

 

それが、ある時期から地震のときにも杭が壊れないようにと考えられ始めました。しかし、杭によって建物自身の耐震安全性が高まったとは言えません。そもそも杭は上下の力には硬くて変形しませんが、横の力に対しては軟らかいものです。

 

焼き鳥の串に硬い肉をむりやり刺しても串は変形しませんが、食べ終わって折り曲げると簡単に折れます。いくら先っぽが堅い地盤に届いていたって、残りのほとんどがズブズブの軟らかい地盤の中にあれば、杭があっても左右に揺れる地盤の揺れを減らすことはできません。

 

「うちは杭が入っているから地震でも安全」というのは間違い。「杭を入れなければならない軟弱地盤なのでよく揺れるんだ」「だからこの建物は、良い地盤の上に建っている建物よりも強くつくらないといけないんだ」と受け止めた方がよいでしょう。

本連載は、2017年11月30日刊行の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

次の震災について本当のことを話してみよう。

次の震災について本当のことを話してみよう。

福和 伸夫

時事通信出版局

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