今回は、歴史的転換点と重なる巨大地震と、「次の震災」の懸念事項について考察します。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とし、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、震災によって起こり得る最悪の事態を防ぐための知識を紹介していきます。

戦後、落ち着いたかのように見えた地震活動だが・・・

安土桃山から江戸へ、元禄から享保へ、江戸から明治へ、そして大戦の時代から終戦へ。地震は大きな歴史的転換のときと重なります。1923年の関東大震災(大正関東地震)から昭和の東南海、南海地震を挟んで1948年の福井地震までは「災害と戦争」の時代でした。

 

戦後は地震活動も落ち着いたように見えました。逆に、都市部を襲う大地震がなかったので、平和な時代が続き高度経済成長を遂げられたとも言えます。

 

しかし、高度成長期が終わったとたんに阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)があり、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)にも見舞われました。それから、熊本地震をはじめ大小の内陸地震、新燃岳や御嶽山などの噴火が毎年のように発生しています。大地が激動の時代に入ったように見える今の日本の姿は、過去の南海トラフ地震の時代と重なるように感じないでしょか。

*すごく大雑把に言って、かつては「海のプレートと陸のプレートは、浅い部分と深い部分はあまりきっちりとくっついておらず、真ん中辺の部分がしっかりくっついている」と考えられていました。「真ん中辺のくっついているやや深い部分がズリッと動いて地震を起こす」という意味です。ところが東日本大震災では浅い部分が広い範囲で動き、巨大な津波を起こしました。浅いところも実はくっついていて、ずれるのだということが分かりました。南海トラフ地震でも、これまでに考えられていた以上の津波が起きるかもしれません。

東日本大震災でずれた、海溝近くの「浅い領域」

ただし、次の震災の様相は、今までとワケが違います。

 

東日本大震災は、海溝近くの「浅い領域」も50メートルほどもずれました。これまで海溝型の地震は、「やや深い領域」がずれるものだと考えられてきました。浅い領域がこれだけ大すべりをすると、津波は巨大なものとなります。

 

巨大地震では、超高層ビルの揺れを増幅させる長周期地震動もたっぷりと放出されます。

 

こうした東日本の断層破壊過程のメカニズムを南海トラフ地震に当てはめると、過去に検討されていた震源域は遥かに広がり、津波は巨大化、高層ビルの被害からも目を逸らせなくなることが分かってきました。

 

人口が各地に分散していた時代と異なり、現代は人口の半分が東京や大阪などの大都市に集中しています。安全な場所が不足して、堤防で守られたズブズブの地盤の上に高層ビルが建ち、電気やガス、水道、インターネット回線、地下鉄など、複雑に絡み合ったインフラに支えられています。

*地震学者の武村雅之名古屋大学教授は「安心は安全の敵、心配は安全の友」と言っています。よく行政は「安全・安心」と言いますが、安全と安心は別物。安心感が大きすぎると何もしなくなります。

本連載は、2017年11月30日刊行の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

次の震災について本当のことを話してみよう。

次の震災について本当のことを話してみよう。

福和 伸夫

時事通信出版局

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