相次ぐ地震により、民間の地震保険の積み立てが激減
東日本大震災関係の支払いが生じる前の時点では、保険料は合計2兆2563億円まで積み立てられていました。
しかし、東日本大震災の発生で1兆2706億円が支払われ、さらに南海トラフ地震と首都直下地震に対する被害想定が公表されると、地震保険契約者が急増。熊本地震と鳥取県中部地震が発生したため支出が増えました。支出は民間(保険会社。再保険会社)の積み立て分から優先して使うので、民間の資金は3256億円と底をついてきました。
現在の地震保険の総支払限度額は11兆3000億円、民間の責任限度額はたった1732億円なので、政府は次に地震が起きたら11兆円超まで負担しなければならないことになってしまいました。
政府の負担する11兆円は保険会社の肩代わりです。保険会社は震災後、加入者からの保険料で返していかなければなりません。返すことができないと政府は貸し倒れになります。
[図表]地震保険金総支払限度額の変遷
保険金だけに頼らず、被害を抑える「備え」が必要
総支払限度額は関東大震災と同規模の被害の地震が起きることを想定し、保険加入者全員に支払うことを前提に設定されています。地震が「関東大震災以上」だったときも全体の支払限度額は変わりません。つまり、1人当たりの支払いは減額されます。南海トラフ地震の被害規模は支払限度額を上回る可能性があります。そうなれば保険金は満額もらえません。
インフラ復旧にも政府の多大な財政支出が必要でしょう。「いざ」というときの保険の実態としては今、かなり危うい状況に感じられます。
ちなみに、地震保険では72時間以内に発生した地震は一つの地震とみなされます。万一、東海地震と南海地震が72時間を超えて連続発生し、さらに阪神・淡路大震災のような直下地震が複数誘発されたとしたら、それぞれ一つの地震として保険が支払われます。そんな被害に対し、地震保険での補償は本当に可能なのでしょうか。
やはり、南海トラフ巨大地震に対しては、保険だけに頼らず、建物の耐震化を進め、被害を減らす必要があります。
*2016年度の再保険の配分割合は、再保険会社が約29%、損害保険会社が約3%、政府が約68%でした。
*地震保険上では72時間以内に起きた熊本の二つの地震は一つとみなされます。安政の東海地震と南海地震は32時間の間隔、宝永地震も東海、東南海、南海地震が同時発生しており、「地震保険上」は一つの地震ということになります。