今回は、来るべき震災の備えについて、どのような対策が必要か考察します。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とし、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、震災によって起こり得る最悪の事態を防ぐための知識を紹介していきます。

被害への対応には「トリアージ」が必要

私は、日本の屋台骨でもある中部地区の製造業をいかに残すかがカギだと思っています。産業立国の我が国では、製造業で稼いだお金でサービス業が成り立っています。

 

来たるべき震災に備えて周到な対策をしておかなければなりません。工場を安全な場所に移転したり、堤防や建物、生産設備を徹底的に耐震化したりして、企業活動への影響を最小限に食い止め、次の地震が来ても大丈夫だと世界に見せ付けることが必要です。

 

国難とも言える被害に対応するためには、災害対応や復興にも「トリアージ」が必要です。トリアージはもともとブドウの選別を意味するフランス語で、災害時に多数の負傷者を選別し、治療の優先順位をつける行為です。赤や黒のタグを負傷者に付けて、助かる可能性の高い重傷の人から優先します。カタストロフィーのさ中、優先順位をつけ、大事なところを選別するという考え方。非情ではありますが、仕方ありません。

 

天災は国家の浮沈に影響します。1755年のリスボン地震では、ポルトガルが衰退に向かいました。1783年のアイスランドのラキ火山の噴火は天候不順をもたらし、冷害がフランス革命の引き金となったと言われています。最近では20万人以上が犠牲になった2010年のハイチ地震の後、ハイチは国として崩壊状態に陥りました。

 

しかし、南海トラフ地震は、それらとも危機のレベルが違います。経済大国である日本の甚大な被害は、グローバル化した世界経済に大きな影響を及ぼし、世界恐慌にもつながると言えます。

将来ある子どもたちのことを考え、今こそ行動するとき

北アメリカ東部森林地帯に居住するイロコイ・インディアンの考え方では「すべての人々、つまり、現世代ばかりでなくまだ生まれていない将来世代を含む世代を念頭におき、彼らの幸福を熟慮せよ」というのがあるそうです(西條辰義編著『フューチャー・デザイン』勁草書房)。

 

例えば、自分の祖父が生まれた時代から、自分の孫が死ぬ時代までを考えれば5世代、200年ほどの時間軸です。200年は関東地震のサイクルにも相当します。

 

今、生まれてきた子どもたちが高齢者になる2100年ごろ、日本の人口は5000万人まで減少している見通しです。多大な債務を抱え、人口減少や超高齢化社会を迎える日本で、今の私たちがするべきことは何なのでしょうか。それは、安全な社会を子どもたちに残すことではないでしょうか?

 

赤ちゃんのかわいい姿を見て、将来を思い浮かべ、今こそ一人ひとりが行動するときだと思います。

本連載は、2017年11月30日刊行の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

次の震災について本当のことを話してみよう。

次の震災について本当のことを話してみよう。

福和 伸夫

時事通信出版局

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。 関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性があ…

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