今回は、現状の日本の高層ビルの耐震性について考察します。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とし、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、震災によって起こり得る最悪の事態を防ぐための知識を紹介していきます。

新たな「耐震基準」の必要性を認めた国土交通省

日本の建築設計は長らく、こうした長周期の揺れの影響をあまり考えてきませんでした。超高層ビルについては、「長周期地震動の実態が分かっていないから安全性が確認されていない」などと曖昧な言い方をしてきました。ですが、21世紀に入ってさまざまな研究が行われるようになり、東日本大震災のちょうど1週間前に、日本建築学会から長周期地震動に対する懸念を記者発表しました。

 

(*我が国最初の超高層ビル・霞が関ビルディングが着工した1965年は、プレート・テクトニクス理論が提唱された1960年代の半ばです。地震の発生メカニズムも十分に理解できていない時代でした。高層ビルが苦手な長周期の揺れも少ないと考えられていました。)

 

最近になって、ようやく国も具体的に動き始めました。2015年12月に、内閣府から南海トラフ巨大地震に対する長周期地震動の予測結果が公表され、これを受けて国土交通省も動きました。2017年4月以降に南海トラフ巨大地震の被害想定地域内に超高層ビルをつくろうとする際には、長周期地震動対策を求めるなど、基準を強めたのです。

 

裏返せば、「今までの設計で考えてきた揺れでは足りない」と認め始めたとも言えます。

 

では、今あるビルは大丈夫なのでしょうか。すぐにでも長周期で共振の怖れのあるビルを調査して補強しないといけないはずです。でも、ビルにはテナントがたくさん入っており、調査すると言うと不安感を与えるので簡単には進まないでしょう。何とかしなければいけません。

超高層ビル群が並ぶ大都市部の被害は計り知れない

東日本大震災では、全国に4000棟以上ある免震戸建て住宅のうち、0.1%ほどに不具合が生じ、免震装置が損傷しました。東京には1000本近くの高層ビルがあると言われています。これと同じ比率を適用すると、万一、関東大震災と同規模の地震が来たら、確率的には1000本に1本は不具合が生じてもおかしくないことになります。

 

壊れないまでも、二度と使えないぐらいのダメージを受けるかもしれません。ガラスや外壁が落ちるビルはもっと多そうです。そしてほとんどのビルの中は、家具が倒れたり走り回ったりしてメチャクチャなことになるでしょう。超高層ビルが林立する東京で今こんなことが起きたら、影響は計り知れません。

 

首都の重要度を考えて、より安全な東京独自の基準があってもよいはずです。現に静岡県では耐震基準を強化する条例を2017年に制定しました。

 

南海トラフ地震や首都直下地震は、いずれほぼ確実にやって来ます。その震源は東日本大震災より遥かに大都市に近く、長周期の揺れをたっぷり放出します。長周期の揺れを増幅しやすい大規模な堆積平野の上に、私たちは高層ビルを好んで建ててしまいました。建物の中で揺れは何倍、何十倍にも増幅されます。大規模地震に対し、大平野、超高層ビルという、最悪の組み合わせが人気なのが日本の大都市です。

 

(*長周期の揺れをたくさん出す「大規模地震」、長周期の揺れを大きくして長い時間揺すり続ける「大平野」、長周期の揺れが苦手の「超高層」。この三つは最悪の組み合わせです。)

 

そのとき東京で、大阪で、名古屋で、日本中で何が起こるのか。次回からはその想定される被害を、揺れや津波の力だけでなく、社会の対応力という視点も織り交ぜて生々しくシミュレーションしてみます。

本連載は、2017年11月30日刊行の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

次の震災について本当のことを話してみよう。

次の震災について本当のことを話してみよう。

福和 伸夫

時事通信出版局

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