「個人の成長→企業の業績アップ」には論理の飛躍が・・・
前回の人事評価制度はロジックの世界の話です。「成果育成型人事制度」に代表される人事評価制度は、個人の成長を測る仕組みの一つです。
従業員個人が知識・技術を習得して、それを会社が特に重要であると考える仕事のやり方に役立てることで、会社の求める成果が上がるとし、その過程で従業員本人も成長するのだというロジックで作られているシステムです。
ところが、私が思うにこういった人事評価制度には「ロジックの飛躍」があります。それは、この制度が「個人の成長→企業の業績アップ」という因果関係を暗黙の了解としていることです。
各個人の最適化で「全体の組織の最適化」は図れない
「全ての従業員が成長すると、会社の業績がアップする」という命題は真なのでしょうか。結論的に言うと、この命題は真ではありません。
全ての従業員のビジネスに関する能力、人間力が上がったとしても、その結果、必ず企業の業績が上がるとは言えません。これも合成の誤謬の一例だと思うのですが、組織の構成要素である各個人が最適化された状態であっても、全体の組織の最適化が図れるわけではないということです。それは、なぜでしょうか。
組織にはハードな側面とソフトな側面があります。組織のハードな側面とは、形があるものや明文化されたもので、組織構造や種々の制度、規則、職務内容、仕事の手順などに加えて、戦略やミッションやビジョンが該当します。
一方、組織のソフトな側面とは、人に関する種々の要素、例えばモチベーションや考えるフレーム、思い込み、コミュニケーションの仕方、協働の仕方、信頼関係など、言語化できない組織の文化や風土です。
組織開発の先駆者であるダグラス・マグレガーは、このソフトな側面(人間的側面)がマネジメント上とても重要であると言っています。
先ほど、ロジックの世界だけで従業員のビジネス力を上げたところで、会社全体の力は上がらないと言った話のミソはまさにそこで、成果育成型人事制度はあくまで組織の構成員である個々の従業員の能力を開発することを目指すシステムであって、「個人間の関係性」にまで目を向けてその開発をも目指すものではないのです。
もちろん、評価項目にある勤務態度の中で「全体最適意識」などとして間接的に「関係性」を評価する項目を入れることもありますが、全く不十分です。もっと直接的に個人間の「関係性」に働きかけるシステムがないと、成果育成型人事制度だけではバランスを欠くと言わざるを得ません。