前回は、「組織開発」によって、工場と本社の関係性を改善した事例を紹介しました。今回は、組織が人材を動かすこその難しさを、事例とともに見ていきます。

会社がマネジメント能力を持たなければ、人は動かない

ここまで読まれた方は、お話ししたいくつかの事例で容易に業績改善を図っているのだなと思っているかもしれませんが、それは大きな誤解です。

 

問題を認知し、課題を設定して、課題解決アイデアを立案しても、実行するのは私ではありません。実行するのは会社のスタッフであり、彼らを指揮するのは会社のマネジメント層です。

 

また、マネジメント層が的確に指示をしても、こちらが提示した課題解決のアイデアが現場ですんなりと実行されるわけではありません。ほとんど全ての事例で、現場のスタッフに動いてもらうまでに多くの時間がかかっています。

具体案を提示したのに、数ヶ月変化なし!?

クリーニング会社のA社の事例でいうと、「新規の顧客開拓活動における価格提示を全部原価ベースで実施しても、提示価格が高すぎて新規の顧客を開拓できません。変動費ベースで価格提示してください」と伝えても、最初の数カ月は誰も動こうとしませんでした。

 

また、製造設備メーカーのB社の事例においても、「中国子会社との取引で日本の本社サイドが儲かっても、その分中国子会社は損をしているので連結ベースでは同じですよ。ですから、中国子会社との取引で儲けようなどと考えないでください」や「見積もりのノウハウが全社で全く共有されていないので、社長に教えを乞うようにしてください」と伝えても、最初の数カ月は営業担当の行動に全く変化がありませんでした。

 

特にC社の例では大変でした。社内のスタッフのみならず、外部の協力業者を巻き込んで工期の短縮に取り組むという大プロジェクトです。外部の主たる協力業者に集まってもらい、何回も説明し協力を依頼しましたが全く効果がありませんでした。社内のスタッフからは、協力業者に動いてもらわないと、いくら自分たちが頑張っても無理だという諦めが伝わってきました。

 

このように、ロジックは人を動かす力が強いとは言えないという欠点を抱えています。人間というものは、大脳新皮質で論理的に理解しても、実際の行動には結び付かないのです。

 

このような経験をしている会社のマネジメント層の方は非常に多いのではないでしょうか。

本連載は、2017年5月26日刊行の書籍『「事業再生」の嘘と真実』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「事業再生」の嘘と真実

「事業再生」の嘘と真実

弓削 一幸

幻冬舎メディアコンサルティング

コスト削減、管理会計、人事評価制度── ロジックだけに頼るのは今日で終わり! 中小企業約100社を経営危機から救った事業再生のプロが、稼げる事業体質作りを指南。 中小企業・小規模事業者には厳しい経営環境が続いてお…

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