前回は、国税総合管理システム(KSKシステム)の特性について解説しました。今回は、決算月の変更が税務調査対策として有効となる理由について見ていきます。

「3月決算は税務調査の確率が低い」は間違い!?

税務調査対策としては、決算月を変更することも効果的です。そもそも決算月については、個人事業と異なり、法人の場合は自由に選ぶことができます。ただ、現実には3月決算にしているところが圧倒的に多いでしょう(実際、筆者のクライアント先の企業で最も多いのも3月決算です)。

 

その背景としては一般に以下のような事情があげられています。

 

①役所など行政の手続きも3月を年度末として区切っているので、それに合わせる方が何かと都合がいい。

 

②上場会社の場合には株主総会を6月に開くところが多いので、総会屋対策を目的として、あえて集中している時期に総会を開くために3月を選んでいる(株主総会は決算発表から3カ月以内に開くことが法律で義務づけられています)。


③上場会社との取引が多い中小企業の中には、取引先に合わせて3月にしているところも少なくない。

 

こうした一般的な事情とは別に、できるだけ税務調査を避けたいという理由から決算月を3月としている経営者も少なくありません。すなわち、3月は他の月に比べて申告が多いので、税務署の作業量が増える結果、決算書を細かくチェックされることはないだろうという思惑から、決算月を3月に定めているわけです。

 

しかし、このような税務対策上の効果を期待して3月決算にしているとしたら、その期待はいつか大きく裏切られることになるかもしれません。仕事柄、国税庁OB等のお話を伺う機会がありますが、その限りでは、最も調査件数が少ないのは1月決算の会社だといわれています。

調査に費やす時間が確保しにくい1月決算の会社

では、なぜ、1月決算の会社は税務調査の対象となりにくいのでしょうか。そこには、調査する側の内部的な事情が、具体的には税務署の人事異動を巡る事情が深く関わっているのです。

 

民間企業とは異なり、税務署では人事異動が7月の頭に行われます。そのため、年間の業務は7月から12月の上期と翌年1月から6月の下期に分かれることになります。

 

したがって、下期に税務調査に着手した場合、調査官は原則として6月末までに作業を終えなければなりません(なお、国税庁の管轄となる大規模な上場会社等を対象とした税務調査は別であり、上期、下期の区別なく1年を通して行われています)。例外はあるものの、基本的に上期は2月から5月決算の法人が、下期は6月から翌1月決算の法人が調査の選定先となっています。

 

すると1月決算の会社を調査対象とした場合には、必然的に調査にあてられる期間が限られることになります。具体的に述べると、1月に決算を行った企業から申告書が提出されるのは2カ月後の3月末になります。それから6月末までは3カ月の期間しかありません。決算書のデータをKSKシステムに入力するなど、事前の手続きに費やされる時間も考えると、この3カ月間はあっという間に過ぎていきます。

 

結果的に、1月決算の企業に対しては調査のためにかけられる時間を十分に確保することが難しくなるわけです。調査官にも、調査件数、申告漏れ等の摘発件数などに関して内部的なノルマがあるといわれています。

 

1月決算の会社をターゲットにしても「調査に時間をかけられない=目ぼしい“成果”をあげられない可能性が高い」とわかっていれば、調査先に選定することにはどうしても消極的になるでしょう。このような、調査を行う税務署側の事情から、1月決算の会社は自然と調査対象から外れる可能性が高まるわけです。

 

したがって、もしできるだけ税務調査を避けたいと思うのであれば、決算月を1月にすることを検討してみるのもいいかもしれません(実際、税務署の職員が、退職後に会社を興す場合には、決算月を1月にしている例が多いといわれています)。

本連載は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「儲かる」社長がやっている30のこと

「儲かる」社長がやっている30のこと

小川 正人

幻冬舎メディアコンサルティング

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