前回は、決算書の中で税務調査官が疑いの目を向ける箇所について説明しました。今回は、モノを売らない会社に対して、税務調査官が重点的にチェックをする「人権費の漏れ」について見ていきます。

サービスを売る会社では「期ズレ」は問題にならない!?

モノを売る商売の場合には、前回で説明したとおり、在庫の動きや納品日などを通して、売上の計上時期がわかりやすく、税務署の立場からみれば比較的、期ズレを指摘しやすいことになります。しかし、モノではなく、税理士や修理業のように、形のないサービスを提供する商売の場合には、売上の計上時期を明確にしにくいところがあります。

 

たとえば、修理をいつ終えたのかが問題となる場合に、具体的には3月31日なのか4月1日なのかが争いになったような場合、3月31日に修理が完了したと証明できる明らかな証拠を税務署が見つけることは、必ずしも容易ではないでしょう。

 

そこで、もっぱらサービスを売る商売を営んでいる会社に対しては、期ズレの問題については厳しく追及してこない傾向が見られます。その代わりに、人件費の漏れなどが重点的にチェックされることになるでしょう。具体的には「外注」とされている費用について不審な点があれば、本当は「給与」ではないかと厳しく追及してくる可能性があります。

 

本来は「給与」とすべきところを「外注」としていれば源泉徴収を行っていないことが問題視されることになります(「外注」であれば会社が源泉徴収をする必要はありませんが、「給与」であれば源泉徴収を行わなければなりません)。「給与」なのか「外注」なのかは、仕事内容や出社時間、名刺や机、ロッカーの存否などから総合的に検討して、仕事をしている者が会社に従属しているか否かをもとに判断されることになるでしょう。

「外注」よりも「給与」とみなしたい税務署の事情

税務署側には、できれば「外注」よりも「給与」とみなしたいという事情もあります。「外注」の場合には、会社から報酬を受けている者の所得に税金を課すためには確定申告が行われている必要があります。したがって、申告を行っていない者に対しては申告を促さなければなりません。

 

一方、「給与」であれば会社には源泉徴収をする義務があるので、会社から税金を徴収することが可能となります。税務署としては、申告を行っていない者に申告を促して税金を支払わせるよりも、会社に支払わせる方がはるかに手間がかかりません。

 

そのため、少しでも怪しいところがあれば、「外注ではなく給与ではないのか」としつこく追及されることになるわけです。顧問税理士の立場からいえば、会社の仕事をさせている者が外注なのか給与なのかは、十分にチェックしづらいところがあります。仮に不審に思えるところがあっても、立場上、経営者に面と向かって聞くのはためらわれるからです。

 

したがって、人件費の問題に関しては、税務署から無用な疑いを受けないためにも、経営者自らが十分な自覚をもって、隙を作らないよう努めることが大切になります。

本連載は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「儲かる」社長がやっている30のこと

「儲かる」社長がやっている30のこと

小川 正人

幻冬舎メディアコンサルティング

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