今後も引き下げ傾向にある法人税の税率
これまで日本の法人税の税率は、世界的に見ても非常に高率であるというイメージがありました。そのため、企業経営者の多くは自身や親族に対して役員報酬・給与を多く支給することで、法人税の節税に努めてきました。「会社に利益を残して高額の法人税を取られるくらいなら、自分たちの取り分を多くして所得税で支払う方がましだ」という考えからです。
実際、法人税と所得税の損得勘定をすれば、会社から個人に利益を移してしまう方が、結果的にトータルの税額は少なくなり、より多くのお金を手元に残すことができました。
しかし、現在、法人税の税率はどんどんと低下しています。法人税率の推移を示した以下のグラフをご覧ください。昭和59年には43.3%だった基本税率は、平成24年の段階では25.5%にまで下がっています。実に4割近くも少なくなった計算です。また、中小法人の軽減税率の特例も、昭和59年の段階では31%だったのが、平成24年の段階では19%にまで下がっています。
このような法人税減少の傾向は、近時の税制改正でさらに強まっています。平成27年度の税制改正大綱では法人実効税率の引き下げについて、「平成27年度を初年度とし、以後数年で、20%台まで引き下げる」との目標が明記されました。
具体的には、国・地方を通じた法人実効税率は、27年度に32.11%、28年度に31.33%とする予定で、さらに引き続き、28年度以降の税制改正においても、20%台までの引き下げが目指されています。
政府が法人税減税の流れをこのように推進しているのは、外国企業の投資促進や、税負担の軽減により日本企業の業績改善や賃上げを促すことが目的となっています。
なお、中小法人の軽減税率の特例の適用期間も2年間延長されることになりました。同特例により、現在、中小企業者の各事業年度の所得金額のうち、年800万円以下の金額に対する法人税の軽減税率は15%となっています。通常の場合に比べて4%も税率が下がっている状態がさらに続くのですから、この特例の延期は中小企業にとっては非常に喜ばしいことといえるでしょう。
増税傾向を強めている所得税の現状を考えれば・・・
法人税の減税が今後進むのとは対照的に、所得税は増税の動きを強めています。まず、平成27年度からは、所得税の最高税率がアップされています。
以下の図は改正前と改正後の所得税の速算表です。改正前は1800万円超の金額については税率が一律40%だったのが、改正後には1800万円を超え、4000万円以下の金額については40%、4000万円超の金額については45%となったのです。
また、給与所得控除の上限額も以下のように引き下げられることになりました。
●平成27年までは給与収入が1500万円を超えると245万円
●平成28年は給与収入が1200万円を超えると230万円
●平成29年は給与収入が1000万円を超えると220万円
給与の額面収入から控除できる金額が減るわけですから、結果的に、所得税、住民税が大きく増えることになるわけです。このように法人税が減り、所得税が増える流れの中で、従来のように会社から個人に利益を移転するような節税対策が、果たして今後も有効といえるか否かは一考する必要があるのではないでしょうか。
税金を節約してより多くのお金を手元に残すという節税本来の目的からすれば、むしろ法人に利益を残して法人税をしっかりと納める方が、その目的によりかなうことになるかもしれません。