毎年取り上げられる「海外取引」への課税に注意
税務対策を進めていくうえでは、国税庁のホームページで毎年公開されている「国税庁レポート」(年次報告書)に目を通しておくこともお勧めします。国税庁は、折りに触れて、税務に関する様々な課題や取組方針、各種施策に関する結果やその実施結果の評価・検証などについて報道発表やホームページなどを通じて納税者に伝えてきました。
「国税庁レポート」もその1つであり、国税庁の1年間の活動に関してわかりやすくまとめられています(「租税収入・予算」「申告・課税状況」など各種統計データも資料として掲載されています)。
同レポートの中では、国税当局が重点課題として掲げているテーマについても触れられています。これは、いわば「このテーマに関しては特に力を入れているので、気をつけてください」という、納税者に対する国税庁からの“警告”といえるでしょう。
したがって、重点課題についてはその中身をしっかりと把握して、万全の対策をとることが望ましいといえます。
国税庁レポートを見ていると、近年は毎年のように、海外取引への課税と消費税が重点課題として取り上げられています。リポートで触れられている関連トピックの中から、今後の税務対策を行ううえで特に注意が求められるポイントについて紹介しておきましょう。まず、海外取引に関しては、以下のような形で国際課税への取り組みが強化されていることが明らかにされています。
①租税条約などに基づく情報交換の実施
現在、日本の税務当局は90の国・地域と租税条約を結んでおり、年間数十万件の情報交換が行われています。
②海外取引のある者や海外資産を保有する者への重点的な調査
海外取引を行っている納税者や海外資産を保有している納税者に対して重点的に調査が行われています。
また、以上と関連して「移転価格税制」への対応が進められていることにも言及されています。移転価格税制とは、日本企業が海外の関連企業と取引をするに当たって、その取引価格が第三者間の取引価格(独立企業間価格)と異なることにより、日本企業の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたとみなして、所得を計算し直す制度です。海外との取引を頻繁に行っているような企業の経営者は十分に留意しておく必要があるでしょう。
増税に伴い、消費税に対する調査を強化していく方針
一方、消費税に関しては、とりわけ不正還付申告防止に注力する方針が明らかにされています。レポート中では、国税庁の意向が以下のような形で示されています。
「消費税は、主要な税目の一つであり、預り金的性格を有するため、国民の関心が極めて高く、一層の適正な執行が求められています。特に、消費税に関しては、虚偽の申告により不正に還付金を得ようとするケースも見受けられるため、還付原因となる事実関係について十分な審査を行うとともに、還付原因が不明な場合には、調査等を実施し、不正還付防止に努めています」
ちなみに平成25年度に消費税に関して行われた税務調査の件数は89万9000件(簡易な接触の件数も含む)で、そのうち59万件について申告漏れが指摘されています。調査対象となった納税者のうち、6割以上が申告漏れを指摘されているわけです。
消費税が今後、増税されることに伴い、「自分たちから徴収した消費税を事業者はきちんと国に納めているのだろうか」という納税者の懸念や疑念がさらに強まることが予想されます。国税庁は、そのような国民感情にも配慮して、消費税に対する調査を強化する姿勢を強めているのです。今後、消費税の申告については、これまで以上に神経を使う必要があるでしょう。