
今回は、会社の私物化に伴う「節税対策」が、結果的に利益をくいつぶす理由を見ていきます。※本連載では、株式会社エッサム編集協力、株式会社古田経営・常務取締役の飯島彰仁氏、会計事務所経営支援塾の著書『9割が結果を出す! 小さな会社の脱零細マニュアル』(あさ出版)から一部を抜粋し、小さな会社が「脱零細企業」となるために必要な改善ポイントをレクチャーしていきます。
会社が社長の「私物」と化す過程とは?
なぜ、公私混同した経営は、大きなマイナス要因になるのか。ここで、経営の数字面からあらためて確認してみましょう。
公私混同とはカンタンにいえば、社長が「俺のものは会社のもの、会社のものは俺のもの」といったように会社を私物化する対応です。
まず、「俺のものは会社のもの」という対応を見てみましょう。これを「社長が全精力を傾けて経営にあたる」と解釈できればいいのですが、そうともいえない面があるのです。
たとえば会社が資金繰りに窮したとき、その穴埋めを社長自身の財布から行う会社があります。この行為そのものは一概に否定はできません。それによって会社と社員、さらにその家族が救われることもあるからです。そのために、社長は常に多くの役員報酬を会社から受け取り、お金をプールしておく必要もあります。
しかし、その〝穴埋め行為〟が頻繁になれば、会社は社長の私物になってしまいかねません。出資以外の社長から会社への資金提供は、会社の決算書では役員借入金として表現します。それは実質、資本金ですから返さなくてもいいお金ですが、会社としてふさわしい対応とはいえません。
つまり、経営としては一時の窮状をしのげるだけで、実際は何の解決にもなっておらず、当然、零細を脱することなど絵に描いた餅のように思えてくることでしょう。
金融機関からの信頼もなくす「利益をくいつぶす」経営
一方、「俺のものは会社のもの」という考え方では、「売上を簿外にして社長が自分の懐に入れる」という行為や「経費を水増ししたり不正計上したりして利益を抑える」というやり方が典型的です。こうすることで、社長の懐は潤い、費用を増やし、売上を減らすので法人税額を低く抑えることもできます。
しかし、節税対策のつもりとはいえ、このような公私混同を重ねていると、遅かれ早かれ結局あるべき利益を食いつぶすことにつながっていきます。
[図表]公私混同とは、このような行為

結果的にどちらの場合も、社員の気持ちは会社から確実に離れていきます。社員が社長の家族のみという会社でも、「結局、会社は社長の都合のいい玉手箱、おもちゃだ」
と考えるようになってしまいかねません。公私混同とそれをもとにした節税対策は、零細から抜け出せない体質をつくってしまう原因となります。
利益をくいつぶす経営は、やがて金融機関からの信頼もなくします。それは成長軌道に乗る源の資金供給という〝水瓶〟をひっくり返す結果を招いてしまいます。
脱零細のためには、零細と呼ばれるゆえんともいえる公私混同を何としても排除しなければなりません。