企業の従業員で「会社が好き」と答えた人は全体の7%
冷静に考えてみてほしい。
いま、あなたの会社が大規模なリストラを行うことになり、あなたも転職を考えるとする。そのとき、はたしていまと同じ給料を他社でももらえるだろうか?
会社が好きで転職など考えたことがない、自信がない、すでに転職を試みたがうまくいかなかった……など、それぞれ事情があるにせよ、自分が社外でも同等以上の評価を得られると確信している人は少ない。日本企業は、長く勤めることに対してインセンティブを用意し、企業内での調整やすり合わせに長けた人材を重く用いる傾向があるからだ。
それはそれでよいことだが、では会社が倒産したときのことは考えているだろうか。あるいは、会社がグローバル化して、若くて能力の高い外国人の人材がやってきたときに、あなたのポストは安泰だろうか。
日本企業はこれまで、年功序列・終身雇用・企業内労働組合の三点セットを武器に、会社に対して忠誠心(ロイヤリティー)の高い社員を育成してきたといわれている。
解雇規制が厳しく、一度雇った人を簡単にはクビにできない制度も、その実現を後押しした。日本企業では、一人ひとりの力が低くても、みなで一丸となるチーム力で高度経済成長を実現できたのだ……これはいわゆる「定説」だが、本当にそうだろうか。
実は、昔はともかく、現代の日本人は会社への忠誠心が驚くほど低いという調査結果がある。ギャラップ社の調査によると、従業員の会社へのエンゲージメント(仕事への熱意度)において、日本人はかなり低いことがわかった。「会社が好き」と答えたのは全体の7%で、「好きでも嫌いでもない」と回答したのが約7割(69%)、残りの24%は、「会社が嫌い」だと回答している。
この数字はアメリカ人の「会社が好き」(30%)、「好きでも嫌いでもない」(52%)、「会社が嫌い」(18%)と比較すると、余計に際立つ。つまり、さまざまな理由で会社を簡単に辞めることのできない日本では、従業員の不満がたまりがちなのだ。
そしてもちろん、不満を持ちながら働く従業員の生産性が、高くなるはずはない。
[図表]国別のEmployee Engagement(社員親近感)比較(Gallip,2011-2012年)
エデルマン社による別の調査でも、「会社を信用しているか」という問いに対しての回答は、日本人が最低だった。アメリカでは64%、中国では79%が「自分の会社を信用する」と答えたのに対し、日本ではわずか40%しかいなかったのだ。これは世界28カ国中、28位の結果であった。
そんなに会社が嫌ならば、なぜ転職をしないのか?
そんなに嫌ならば、なぜ転職をしないのか。日本人が会社を辞められない理由はさまざまだ。
まず、他国の企業と比べると平等かつ弱者に優しい雇用環境で、ぬるま湯にひたっていると、社外での競争に身をさらす勇気がなくなっていくからだ。日本企業では、給料が劇的に上がることはないが、仕事ができなくてもただちにクビにならず、居場所を作ってもらえる。のんびりと働きたい人間には居心地がいいのだ。
それに加えて、転職市場の流動性が低いこともあげられる。せっかく企業の外に飛び出しても、中途採用は外様扱いで肩身が狭い。たとえ実力が多少劣っていても、生え抜きの社員が可愛がられるのが日本企業だ。完全な能力主義になっていないのであれば、自分だって従来の会社に居続けたほうが、メリットが大きい。
だが、そんな環境がはたして人を十分に成長させてくれるだろうか。
私は、人間の成長にはある程度の緊張感が必要だと思っている。常にレイオフと隣り合わせで、徹底した成果主義で、勝者は高収入を得られるが敗者はクビになる――。
プロローグで紹介した「Upor Out」ということばを思い出してほしい(本書籍を参照)。毎年、自分の実力を伸ばすことが求められ、成果を出せなければ職場を出ていくべきという考えだ。この考えが当たり前となっている多くの資本主義経済の国では、極めて優秀な人材が育っているのを見逃すわけにはいかない。
シリコンバレーやニューヨークのビジネスパーソンのライフスタイルはタフだ。昨日の成功者が今日は失業するといったことは日常茶飯事。しかし、その一方で敗者復活の道もいくらでもある。
東京とニューヨークやシリコンバレー、どちらが本当に人間らしく生きられる街なのか。どちらが正解ということではない。しかし私は過剰に守られ流されていく人生より、何かに挑戦し常に自分を鍛えていく人生の方がより人間的だと思ってしまうのだ。経営者ばかりでなく一般社員もそのような競争にさらされる時代が、すぐそこまで来ている。