前回は、中小企業における後継者育成の第一歩として、「会社の現状分析」が重要となる理由を取り上げました。今回は、事業承継をスムーズにする「タイミング」の掴み方等について見ていきます。

社長と後継者が「納得のいくタイミング」で折り合いを

〈事業承継のタイミング〉

 

何年後、社長と後継者がお互い何歳になったときに承継するか、期限を書きます。まずは社長の想定する承継時期を書いておけばよいですが、後継者の希望する時期と異なることが考えられます。お互いの事情を汲んだうえでいつがベストタイミングとなるかは第三者では決められないので、この用紙作成を契機として、当事者間の話し合いで決定していきます。なお、一般的には後継者育成期間として5~10年はかかるので、育成期間も考慮して事業承継の期限を設定することが必要です。

 

事業承継のタイミングは、オーナー社長の年齢と健康状態、後継者の年齢とこれまでの仕事の経験、後継者を支える幹部の存在の有無などに基づいて検討します。5年後、10年後には幹部が定年退職している可能性があり、後継者に子どもがいれば、学業の面で検討事項があるかもしれません。そのような日常の風景をイメージしながら、事業承継のタイミングを設定しましょう。

 

私が見てきた例では、創立の周年記念をきっかけに事業承継した場合や、子どもの年齢が40歳になった時点で事業承継した場合があります。周年記念パーティーの場で、取引先に後継者を紹介する場合もあります。このようにキリのよいタイミングやなんらかの節目と併せて事業承継時期を設定するのも一つの方法です。

 

承継時期の設定で重要なのは、仮に後継者育成がうまくいかなくても挽回する時間が持てることです。万が一、育成途中で後継者が不適格だと判断されたり、あるいはなんらかの理由で承継が不可能になったとしたら、別な候補者を擁立して再度育成を始めなければなりません。そうした事態に備えるためにも、事業承継の時期は早めに設定しておくことが重要です。

後継者に会社の数字を示し、事業承継への姿勢を見る

〈現在の姿〉

 

ここでいう現在の姿は、要するに会社の数字です。現在の売上高と経常利益を、直近の決算書の損益計算書から百万円単位または千円単位で転記します。

 

後継者が会社経営の実態を正しく把握しているとは限りません。むしろ、ものすごく儲かっている、あるいは苦しい状況にあるなど、極端なイメージを勝手に持っている場合もあります。そのため、儲かっていると思っていたのに苦しい実情を知り、承継に尻込みしてしまう後継者もいるでしょう。反対に、意外と利益が出ていることを知って意欲的になることもあるなど、実際の数字を示すことで、後継者の事業承継に対する姿勢に変化が見られます。

オーナー社長の後継者育成読本

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久保 道晴

幻冬舎メディアコンサルティング

経営者の高齢化が進む中で、後継者不在に悩む企業が増えています。 適任者が見当たらない、子どもに継ぐ意思がないなどの理由で次期社長の目途が立たず、やむなく廃業を選択する経営者も少なくありません。 本書はこうした悩…

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