承継者の選定から本人の了承まで「1年」は必要!?
育成するにはまず後継者を選ぶことから始めますが、後継者候補にはそれぞれ特徴があります。育成を前提にするとはいえ、どこから誰を選ぶかによってメリットとデメリットが異なるため、その違いを押さえておきましょう。
基本的に承継の形は大枠として「親子承継」「親族承継」「たたき上げ承継」「社外承継」の4種類があります。2017年版の「中小企業白書」によれば、後継者の選定開始から了承を得るまでにかかった時間として、中規模法人の場合、1年超を要した企業が79.5%、5年超が14.4%となっています。
今日から後継者を選び始めても、後継者自身が了承するまでに少なくとも1年は要する前提で、後継者選びと育成期間を逆算することが必要です。それでは、それぞれの後継者候補を選んだときの違いやメリット、デメリットを確認していきましょう。
[図表]事業承継の4類型
親子承継なら、事業用資産と経営権のセット相続が可能
事業承継を見据えれば最終的には後継者に株式の譲渡が必要になります。中小企業の場合、赤字企業も少なくありません。しかし赤字企業であっても、資産超過だったり、土地の評価額が高くなったりすると、自社株の評価額が予想より高くなることもあります。2017年版の「中小企業白書」を見ても、赤字企業のうち25.7%が、予想より自社株の評価額が高かったと回答しています。赤字だから自社株にはたいした価値がないだろうとタカをくくっていると、譲渡時に思わぬ課税がなされることになるので、注意が必要です。
また、株式以外にも現社長は事業に用いている個人名義の土地、建物などを所有していることが多く、それらはたいていが借入金の抵当に入っています。このような事業用資産の相続と会社の経営権の相続をセットにして行えることが、親子承継のメリットです。
法定相続人以外の人が会社を継ぐ場合、遺留分(被相続人の兄弟姉妹以外が相続し得る最低限度の相続財産)を持っている親族から遺留分減殺請求(法定相続分よりも多い財産を相続した相続人に遺留分相当の財産を請求すること)をされたときに事業用資産が後継者以外に分散してしまい、会社経営が不安定になるリスクがあります。
さらに、事業承継では社長による個人保証も問題となります。一般的には社長の資産を相続する子にも個人保証を付けることになりますが、個人保証は法人経営が立ち行かなくなったときに個人生活をも侵害するリスクがあります。それが社長の宿命ともいえますが、承継する側としては後継者となることをためらう要因になりかねません。
ただし、近年はそれが事業承継の阻害原因になっていると問題視されており、経営者の個人保証に拠らない融資が促進されています。2014年2月から運用されている「経営者保証ガイドライン」に記載されている一定の条件をクリアすれば、個人保証を外したり緩和したりすることが可能です。