後継者本人も事業承継の「自覚」が備わりやすい
社長の子であれば、従業員や親族、友人など周囲の人々から、次期社長としての期待を感じる場面も少なくありません。そのため、なんとなく子どもの頃から事業承継に対する意識が芽生えやすいといえるでしょう。
筆者著書『オーナー社長の後継者育成読本』第二章で、後継者には自覚や覚悟が不可欠と述べましたが、社長の子は覚悟を決めやすい環境にある点で、他の後継者候補よりアドバンテージがあるといえます。同族経営の会社では、会社の歴史は家族の歴史そのものです。両親や祖父母が人生をかけて築き上げた会社をむざむざ自分の代で潰すというのは、子としても心情的に避けたいことですし、継続・発展のために尽力したいと考えるのは自然なことです。
親子以外の場合、承継にあたってなんらかの不都合があると「こんなこと聞いていなかったから株式譲渡する」と社長の座をあっさり降りてしまうリスクがあります。しかし家族や会社の事情をよく知る子であれば、そう簡単に投げ出すこともありません。
早い段階で銀行担当者とも面識が持てる
また、会社を継がないと言っていた子でも、いざ親子以外の親族や従業員に継がせようとすると、親の気持ちを真剣に考えて、自分が会社を継ぎたいと積極的になることもあります。
社長の子が会社にいれば、従業員は自然と後継者だろうと考えるものです。能力や資質は別にして、後継者がいるとわかることの安心感は、前章で述べた通りです。また、後継者が社内にいれば従業員とのコミュニケーションも早くからとれるうえ、次期社長としての向き不向きや相性などを判断していく時間もできます。
取引先も社長の子が後継者として育っているとわかれば、その後の取引を前向きに検討可能です。融資を行う金融機関も親子承継の事例は豊富に持っているため、承継前後もスムーズに対応してくれるでしょう。もちろん銀行などは後継者の経営能力を厳しくチェックしますが、親子承継であれば早い段階から銀行の担当者と後継者が面識を持てるなど、信頼関係構築に十分な時間を確保することができます。