自治体病院を悩ませる、存在意義の不明瞭さや財政難
普段はあまり意識しないかもしれませんが、病院を運営する組織は医療法人や個人、国、自治体、大学、宗教法人などさまざまです。
地域の特性や病院の規模・診療科などにもよりますが、民間病院と並んで身近なのが都道府県や市町村が運営する自治体病院でしょう。多くは「○○市民病院」や「○○県立中央病院」といった名称で運営されています。
厚生労働省によると、2017年現在、全国には公立大学の附属病院などを含め約900の自治体病院があります。国内の病院の総数はこの時点で8439か所なので、自治体病院はざっと全体の約1割を占めることになります。
これらの自治体病院にとっては、今が正念場です。
背景にあるのは、自治体病院の存在意義の不明瞭さと全国の自治体の財政難です。自治体病院を所管する総務省は2007年末、「公立病院改革ガイドライン」を公表し、自治体病院の役割を「地域に必要な医療のうち、採算性などの面から民間による提供が困難な医療を提供すること」と端的に示しました。その上で、自治体病院に期待される医療機能の具体例として以下を挙げています。
①山間へき地・離島など民間医療機関の立地が困難な地域での一般医療の提供
②救急・小児・周産期・災害・精神など不採算・特殊部門の医療の提供
③県立がんセンター、県立循環器病センターなど地域の民間医療機関では限界がある高度・先進医療の提供
その代償として、自治体病院は自治体の一般会計から病床の保有数に応じて毎年繰り入れを受けてきました。民間病院では対応が難しい医療をカバーする代わりに自治体が手厚く補助するといったイメージです。
隠れた医療費=自治体の一般会計からの繰り入れ
地方独立行政法人が運営する病院を含めると、自治体の一般会計からの繰り入れは全国で総額8000億円を超えました(2009年)。この金額は国の医療費としてはカウントされない、いわば〝隠れた医療費〞です。
これまでの連載で紹介したように、国の医療経済実態調査によると自治体(公立)病院の経営は民間病院よりも厳しい状況です。それは、本来の役割である「不採算医療」をカバーしているためなのかというと、必ずしもそうではありません。
へき地や離島で地域医療を一手に担うなど、文字通り孤軍奮闘するケースもあって一概に論じることは困難ですが、都市部には、民間との役割分担が不明瞭な自治体病院がたくさんあります。
こうした自治体病院は、いわば毎年多額の補助を受けながら民間を圧迫し、なおかつ赤字を垂れ流しているのです。そのため民間病院の間にはこうした「官民格差」への不満が根強くあります。
民間病院との役割分担が不明瞭で、自治体の財政支援を受ける大義名分が揺らぐというのなら自治体病院も民間病院と同じ土俵で競争すべきです。