今回は、「タックス・ヘイブン対策税制」が作られた背景を見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、久野康成公認会計士事務所所長、株式会社東京コンサルティングファーム代表取締役会長の久野康成氏が監修した『フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]』(TCG出版)から一部を抜粋し、フィリピンでビジネスを展開するにあたって知っておきたい現地の基本的な税務知識を紹介します。

税負担を減らすため、第三国を経由した投資が増加

近年のアジア圏の経済成長は目を見張るものがあり、日系企業の進出件数も年々増加しています。広くアジア圏に拠点展開している日系企業の中には、日本からの直接投資ではなく、他の海外拠点からの投資の形態により、フィリピンに進出するケースも出ています。

 

具体的には、アジア圏に複数国にわたって拠点展開している企業などは、その各国の海外子会社を統括するため、シンガポールや香港に「地域統括会社(RHQ)」を設置し、これらの国から更にアジア各国に投資をするケースも増えてきています。

 

シンガポール、香港を中心とするこのような形態を取るメリットは、さまざまな要素が考えられますが、特に大きなメリットとしては、シンガポールや香港は、タックス・ヘイブン(軽課税国)と呼ばれ、所得に対する税負担が他の近隣諸国に比べ低く、これらの国に利益を集約させることにより、グループ全体の租税負担を大きく引下げることができる点です。

 

日本の法定実効税率は約3割と、諸外国に比べても税負担が重くなるため、多くの日系企業がこのような投資スキームを採用しています。

企業利益が海外に流出し続け、税収が減少する事態に

しかし、そのような利益集約により得をするのは企業側だけであって、国側としては利益の海外流出による税収の減少という、深刻な問題が発生しました。

 

この問題に対処するため、課税逃れを目的にシンガポール、香港といった軽課税国に子会社を設立し、利益を不当に海外に留保した場合に、日本側においてその留保利益を課税するという制度ができました。これが、いわゆる「タックス・ヘイブン対策税制」と呼ばれる制度です。

※掲載された情報は、書籍の出版当時のものです。法改正などによる最新の情報を確認したい場合は、書籍の情報を元にデータベースを行い、常に最新の情報にアップデートしている『Wik Investment』をご利用ください。https://www.wiki-investment.com/

フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]

フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]

久野 康成

TCG出版

「東南アジア経済成長率No.1 日系企業注目度No.1」のフィリピン本の改訂版。 フィリピンの経済成長は、2011年には欧州債務危機の影響などで減速しましたが、2016年にはGDP成長率6.8%を達成しており、成長著しい新興国の一つ…

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