日本に利益を還流する場合「利益送金税」に注意
フィリピンへ進出し、現地国の活動を通じて利益が発生した場合、この利益を留保して再投資するのか、親会社に還流するかといった問題が発生してきます。
現地において再投資をする場合には、税務上の問題は特段生じませんが、日本にある本店または親会社へ利益を送金する場合には、それぞれ以下のような取扱いとなります。
●支店から本店への還流
日本企業がフィリピンに支店を設置し、そこで発生した利益を送金する場合には、「利益送金税」が送金額に対して15%課税されます。
この場合の課税対象となる支店利益については、源泉課税の対象となる利子、配当などは除かれ、支店の総所得を構成する部分となります。受取側の本店では、支店からの送金額については単純な資金送金として取扱われるため、課税の対象とはなりません。
送金の際にフィリピンで支払った利益送金税については、日本で所得合算して申告をする際に外国税額控除の対象となります。
子会社から親会社へ利益を還流する「2つの方法」
●子会社から親会社への還流
フィリピン子会社で生じた利益を日本親会社へ還流する場合、その方法としては以下の2通りが考えられます。
①配当により親会社へ還流する方法
②親会社との取引を通じて還流する方法
①の配当により還流を行う場合、フィリピン子会社からの配当金支払時に通常は30%の源泉税が課税されますが、日比租税条約により、10%または15%で課税されます。つまり、支払総額から当該源泉税額が控除された残額が親会社へ支払われることになります。
<配当に対する課税(日比租税条約10条)>
日比租税条約の10条2(a)において、配当支払前の6カ月に、議決権付株式の25%以上を保有している法人または発行済株式の25%以上を保有している法人に配当を支払うのであれば、その税率は10%とし、同条2(b)その他の場合(すなわち10%未満の保有の法人)は15%とすることとなっています。
ただし、同条4において、それらの配当が、恒久的施設を通じて(すなわち駐在員事務所を保有している企業に対しての配当の場合)実質的に事業を行ったとされる場合には適用されないとしています。
日本の親会社側においては、この配当金については、法人税額の計算上、「外国子会社等の受取配当金の益金不算入※」の規定により益金不算入となります。つまり、フィリピンにおいて配当に対する5%の源泉税を納め、日本側で配当収入に課税しないことで(益金不算入)、二重課税を排除する形になっています。
※日本の法人が、フィリピンに所在する関係会社の株式を、配当等の支払義務が確定する日前6カ月以上引き続いて直接に保有している場合に、受取った配当額の95%が益金不算入となる規定
配当以外で利益還流を行う場合、使用料、ロイヤルティ等の取引を通じて親会社に利益を還流する方法が考えられます。これらの取引についても、まずフィリピン側から日本側への支払の際に、源泉徴収の対象となります。
<使用料(ロイヤルティ等)に対する課税(日比租税条約12条)>
「使用料」の定義は、12条3項に、文学上、美術上もしくは学術上Ⅶ税務370の著作物、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式、もしくは秘密工程の使用などの権利の対価とされており、税率は10%を上限としています。
ただし、同条7項において、それらの使用料が、恒久的施設を通じて(すなわち駐在員事務所を保有している企業に対しての使用料の場合)、実質的に使用に対する供与が行われたとされる場合には適用されないとされています。
また、これらの取引については国際間での関係会社間取引に該当し、移転価格税制の対象となります。特に、使用料、ロイヤルティについては「無形資産取引」として、料率等の対価設定が通常の売買取引と比較して難しく、税務当局から指摘されやすい取引となっているため注意が必要です。