今回は、関係会社間取引における留意点を見ていきましょう。※本連載は、公認会計士・税理士で、久野康成公認会計士事務所所長、株式会社東京コンサルティングファーム代表取締役会長の久野康成氏が監修した『フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]』(TCG出版)から一部を抜粋し、フィリピンでビジネスを展開するにあたって知っておきたい現地の基本的な税務知識を紹介します。

利子を支払う際に注意したい「貸付利率の設定」

●関係会社間取引のケーススタディ

 

[日本親会社からフィリピン子会社への資金貸付に係る利息収入]

 

日本にある親会社からフィリピン子会社への貸付を行い、その利子を支払う場合、まず気を付けなければいけないのが、貸付利率が適正に設定されているか、という点です。

 

これは、連載5回目で紹介した「移転価格税制」により、親子会社間取引について、外部の第三者と同じ取引をした場合と同様の対価設定が必要になるため、本ケースにおいては、日本親会社側では「利率が低い」と指摘されるリスクがあり、フィリピン子会社側では「利率が高い」と指摘を受ける可能性があります。

 

このような場合に、特にアジア各国間においては市場金利が一定しておらず、一体どちらの国の貸出利率を基準にすれば良いのか? という問題が発生しますが、一般的に、貸出側(資金の提供元)の国における適正貸出利率をベースに移転価格を検証していく形になります。

 

また、直接親会社からの貸付ではなく、フィリピン子会社が外部の金融機関等から借入を行う際に、日本の親会社側が債務保証などを行うケースがあります。

 

この債務保証についても、役務提供に類似した行為として、移転価格税制の対象取引となるため、まず親子会社間で債務保証に対しての保証率を設定し、適切に対価の収受を行う必要があります。

 

その他、フィリピンからの貸付利息の支払の際に20%の源泉徴収を行う必要がありますが、日比租税条約により、10%の限度税率が適用されるため、実際には10%の源泉徴収を行った上で、親会社へ利息を支払うことになります。

 

そのうえで、前述の「みなし外国税額控除」を日本の親会社の確定申告において適用することにより、実際にフィリピンで源泉徴収された10%ではなく、15%が源泉徴収されたものとみなして、税率の差分の5%部分についても、日本において外国税額控除を適用することができます。

 

利息に対する課税(日比租税条約11条)

利子所得においても、配当と同様に税率が定められており、11条2項において10%を上限としています。ただし、同条3項及び4項において政府系銀行(国際協力銀行など)からの借入金利息については、税金が免除されることとなっています。

費用を日本で負担した場合「寄附金課税」のリスクが・・・

[日本ーフィリピン間での費用負担]

 

日本からフィリピン立ち上げのために出張などで現地に滞在する場合に、その経費負担をどのように決めるかが問題になります。

 

一般的に、会社設立前の費用については、日本側で負担、会社設立後の費用についてはフィリピン側で負担というケースが多いですが、設立当初フィリピン子会社で赤字が続くような場合に、日本側で費用負担をしてしまうケースがあります。

 

メーカー等が製造子会社を立ち上げた際に、設立当初のサポート業務などを無償で子会社に対して行うようなケースもあります。

 

本来、日本で負担すべきでない(フィリピン側で負担すべき)費用を日本で負担した場合には、日本側において「寄附金課税」のリスクが発生します。

 

当該リスクに備えるためには、役務提供についてはしっかりと契約書を作成し、費用負担については一定の合理的な基準を設け、その基準に沿って各法人で負担させるといった規則正しい処理が効果的です。

 

ただし、当該取引についても関係会社間での取引であれば、前述の「移転価格税制」の対象取引となり、日本・フィリピンそれぞれにおいて費用負担の妥当性が問われることになります。

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