今回は、フィリピンでのビジネス展開に関わる「税務の問題」について探ります。※本連載は、公認会計士・税理士で、久野康成公認会計士事務所所長、株式会社東京コンサルティングファーム代表取締役会長の久野康成氏が監修した『フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]』(TCG出版)から一部を抜粋し、フィリピンでビジネスを展開するにあたって知っておきたい現地の基本的な税務知識を紹介します。

現地でのビジネス形態は複数あるが・・・

企業が海外でビジネスを行う場合、その活動に付随してさまざまな税金の問題が発生します。今後、想定される問題を事前に予測し、対策を練っておくことで、事業をスムーズに運ぶことができます。

 

フィリピンでビジネスを開始する場合に、いくつかの形態が考えられます。

 

①駐在員事務所を設置する形態(ビジネス開始前)

②事業拠点を設置せずビジネスを行う形態

③事業拠点を設置してビジネスを行う形態

 

ビジネスの規模等に応じて、それぞれについてメリット、デメリットがありますが、いずれにおいてもフィリピン国内の税務問題だけでなく、国際間での税務問題もかかわってきます。

税務リスクが非常に少ない「駐在員事務所の設置」

以下、各ケースについて関連する税務問題を検証していきます。

 

●駐在員事務所を設置する形態……①

 

フィリピン進出を検討する際に、現地の市場調査等の目的で、まずは駐在員事務所を設置して活動を開始するケースが想定されます。

 

駐在員事務所を設置した場合、一切の営業活動が禁止されているため、現地では駐在員事務所での活動費用(駐在員の人件費、事務所家賃など)が発生するのみで、収益については預金による利息収入くらいになります。税務申告上は赤字での申告となるため、フィリピンにおいて法人所得税の納税は発生せず、税務リスクも非常に少ない形態といえます。

 

ただし、納税が発生しない場合でも、毎決算期ごとに税務申告書を作成し、法定期限までに申告書の提出を行う必要があるので注意が必要です。

 

また、日本側においては、駐在員事務所で発生したすべての収益・費用については、日本側の損益に取り込まれることになります。よって、初期調査段階における経費をすべて日本側で吸収することができ、赤字リスクを回避することができる形態といえます。

 

注意しなければいけない点は、仮に駐在員事務所において営業活動を行っている場合に、当該駐在員事務所がフィリピン税務当局より「営業拠点」として認定された場合、フィリピンの駐在員事務所は日本法人の支店とみなされ、所得認定が行われフィリピンにおいて納税が必要となることです。税務当局によるこのような課税を「PE認定課税」と呼びます。

 

●事業拠点を設置せずビジネスを行う形態……②

 

フィリピン国内に活動拠点を設けず、日本からの輸出販売、サービス提供やフィリピン国内の代理店等を通じてビジネスを行う場合、基本的に現地にPEが存在しないため、現地で所得課税が行われることはありません。

 

そのため、取引に付随して生じる税務問題は多くはありません。しかし、仮にフィリピン国内にPEが存在しない場合であっても、たとえば自社の社員が長期間フィリピンに滞在し、実質的に拠点を設けて営業活動をしているものとフィリピンの税務当局に認定された場合には、前述のPE認定課税が行われるケースも想定されるため、注意が必要です。

 

この話は次回に続きます。

※掲載された情報は、書籍の出版当時のものです。法改正などによる最新の情報を確認したい場合は、書籍の情報を元にデータベースを行い、常に最新の情報にアップデートしている『Wik Investment』をご利用ください。https://www.wiki-investment.com/

フィリピンの投資・M&A・会社法・会計税務・労務[第二版]

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久野 康成

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