市場の過剰反応を警戒するECB
欧州中央銀行(ECB)は、10月26日に開催された政策理事会で、資産買い入れ規模を2018年1月から9月末まで月額300億ユーロの規模に半減することを決定した。欧州債務危機以来、低成長・低インフレへの対策として2014年からECBが続けてきた量的緩和政策は、転機を迎えたといえるだろう。
金融政策の歴史的転換という決定にもかかわらず、ユーロ相場や長期金利の反応は、限定的であった。ユーロは対米ドルでは売られ、長期金利もわずかに低下したほどである。ユーロドルに至っては、テクニカルポイントも下回り、当面ユーロ安の圧力が顕在化しやすい形にも見える。
ドラギ総裁は、政策理事会後の記者会見で非常に慎重な姿勢を貫いた。今回決定した減額後の額での資産買い入れを少なくとも来年9月までは継続することを強調し、経済見通しが悪化したりインフレ目標の達成見込みが維持できない状況に陥れば、継続期間や買い入れ規模を見直す可能性についても言及して、市場の過剰反応を抑えることに腐心しているようである。
各国が内政問題を抱え、ユーロの強気材料は出にくいか
以前も指摘したことだが、ECBは、FRBがかつて資産買い入れ策を表明した際の市場の反応が大きすぎて、景気回復の初期段階を脅かすような事態になったことを強く警戒していた訳で、その点では、ECBの市場との対話は、意図通りに上手くやっているということだろう。
現実には、金融政策の歴史的転換という割には、ユーロ圏の現実は厳しい点も多い。ユーロ圏では、昨年来、景気は拡大傾向が明らかになってきているが、国ごとにばらつきは大きくなってきているほか、インフレ率は2%の目標に到達しない状況が続いている。そして、事業法人も金融機関もバランスシート調整が想定されたほど進んでいる訳ではない。
また、南部の国々では、高水準の財政赤字や不良債権の高止まりといった構造問題を抱えたままである。ECBは、資産買い入れ策を、保有するドイツ国債が大量すぎるというテクニカルな問題も抱えており、早期に縮小に動いたのであろうが、ややおっかなびっくりな姿勢が見え隠れする。
ECBの政策変更が、しばらくは封じられるということもあって、焦点は12月のユーロ首脳会合での、EU強化のための改革案の議論に移るだろう。しかし、スペイン・カタルーニャ問題のようなユーロ圏各国の内政問題に火がつきつつある中、改革の議論は難航しそうである。このため、当面、ユーロの金利が上昇する可能性を含め、ユーロ強気材料は出にくく、ユーロには下押しの力が掛かりやすいと見ておきたい。