政策がもたらす変化、市場の変化等の予測は難しい
医療を取り巻く環境が刻々と変化していることは、いまさら述べるまでもないでしょう。度重なる法改正、国家財源の苦しさを反映するかのような原則2年に一度の診療報酬改定のように政策がもたらす変化もあれば、人口の移動や高齢化など市場の変化もあり、その先はなかなか読めるものではありません。
こうした外部要因のほかにも、たとえば先端医療機器を導入するなど、医療の進歩がもたらす変化も大きいでしょう。
同様に病院内部で起こりがちな変化の要因として、医師や看護師ら、スタッフの異動が多いことはここで論じるまでもありません。首都圏を離れた病院では、大学医局の意向も医師の異動に影響しますし、また、医師が異動する際、一緒に看護師も辞めてしまったという話をよく耳にします。
建築基準法を守るだけでなく、災害に耐える必要も
ところが、病院は、その外部・内部環境だけでなく、建築においても変化が多いのです。1981年に建築基準法が大きく変わり、耐震基準が厳格化されました。新基準に合わないため、建替えを決断した病院も多くあります。
それから35年以上がたち、さすがに現在では新耐震基準に合わない病院は少なくなりました。しかしながら、2011年の東日本大震災の発生以降、この事態を踏まえた天井落下防止のための法規制導入により、従来型の広い吹き抜け空間の設計が難しくなるなど、病院設計の現場においても新たな変化が加わっています。
近年目まぐるしく発生している震災や津波、河川の氾濫など、大規模自然災害によって、病院に求められる防災性能のスタンダードは、大きく変わりつつあるのです。建築基準法を守ればよいのではなく、想定外の自然力に耐えることが、当たり前のように求められています。
このように、医療も建築もどちらの変化も主体的に起こすものではない以上、将来予測は困難といわざるをえません。
しかし、変化のたびに医療を中断するわけにはいかないのも事実です。病院経営は、継続してこそ価値が発揮されるわけですから、いつ、どのように起こるか予測できない変化に対応できる病院設計が欠かせません。将来の変化を見越して、あらゆる技量・経験をもとにしたマスタープランを提案することこそ、設計会社に求められています。
[写真]稲沢市民病院