過去2年度のパフォーマンスを見ると・・・
今回は、米国エンダウメントのパフォーマンスを見ていきましょう。前回紹介したように、エンダウメントのポートフォリオは約4割が伝統的資産(上場株式、債券)、約6割がオルタナティブ資産に配分されています。そのポートフォリオが、どのようなリターン特性を持っているのかは興味深いところです。
以下の図表1は、米国のトップ5のエンダウメントの運用成績を、過去2年度で見たものです。一見すると、2017年度はすべてのエンダウメントのパフォーマンスは米国株式を代表するS&P500指数に劣後していますが、2016年度はイェールとテキサスが同指数を凌駕しています。
[図表1]米国大学エンダウメント トップ5のパフォーマンス
また、米国株と米国債を合わせた合成ポートフォリオ(米国株60/米国債40)に対しては、2年間で見ればハーバードを除いて、どのエンダウメントもより高いパフォーマンスを計上しています。
残念ながら、ハーバード・エンダウメントはここ数年パフォーマンスの悪化に悩まされています。ベンチマークに対する超過収益を獲得したポートフォリオ・マネジャーへの業績給が過剰であったことや、各資産クラスの担当者間での運用情報がうまく共有されていなかったこと等が報道されており、2017年度からは新しいCEOの下で再生を図っています。
一方、ハーバードとは異なり、ここ20年間エンダウメントを牽引しているのはイェール大学エンダウメントです。過去10年間の平均リターンは年8.1%(2016年度基準)と、非常に安定したリターンを上げています。
以下の図表2は、イェール大学のポ-トフォリオとそのパフォーマンスですが、特にオルタナティブ投資部分(絶対収益ヘッジファンド、ベンチャーキャピタル、天然資源、LBO<Leveraged Buyout>、不動産)で、米国株式を凌駕する高いリターンを上げているのがお分かりになると思います。
[図表2]イェール大学の資産クラス別パフォーマンス(2016年度)
イェールのエンダウメントはアクティブ運用に力を入れており、低コスト運用で絶対的な高リターンを求めるというよりも、適切な運用報酬を支払いながら長期リターンを極大化する戦略を採っています。
また、イェールに限らずエンダウメントはまずポートフォリオのリスク値を決め、それに従ってパフォーマンスの向上を図るやり方を踏襲しています。
ややもすれば、個人投資家は「目標リターン〇〇%」と決めて資産クラスを選択したり、ポートフォリオを組成したりしがちですが、重要なのは投資家自身が、リターンよりもどのくらいのリスクで運用するかを決めることなのです。
全米の10年間の年間平均リターンは6.3%
さて、全米には約800のエンダウメントがあり、各エンダウメントは長期分散投資を基本にして運用しています。
それぞれのエンダウメントは、運用資産規模の違いからハーバードやイェールのようなダイナミックな運用を出来るわけではありませんが、そのポートフォリオは伝統的資産とオルタナティブ投資に分散されているのが特徴です。
以下の図表3は、全米エンダウメントの平均的なリターンになりますが、中長期的に安定したリターンを計上しているのがお分かりになるでしょう。10年間の年間平均リターンが6.3%ですから、資金が外部流出しなければ運用資産は2倍弱になっている勘定になります。
[図表3]全米エンダウメントの期間別平均リターン
次回以降は、エンダウメントの投資対象資産であるオルタナティブ投資についてお話ししたいと思います。