東京都の事業所の92%は「従業員数20人未満」
前回に引き続き、東京の売買市場における中型オフィスビルの投資対象としての現状を見ていきたい。
2.投資家にとっての中型オフィスのメリット
2-1.安定した賃貸需要
賃貸不動産としての中型オフィスビルは、日本でもっとも層の厚い中小企業の受け皿である。
東京都の事業所のうち、サービス業などオフィスを使用する業種をみると(図表1)、全体の92%が、中規模以下のビルに入居する「従業員数20人未満」の企業が占めている。
[図表1] 東京都 従業者規模別の事業所数割合(2014年)
供給に起因する「需給バランス悪化」の可能性は低い
2-2.新規供給が限定的
今後予定されている新規供給の殆どが大型ビルで、中型ビルの供給は極めて限定的である。そのため、中型ビルにおいては供給に起因する需給バランス悪化の可能性は低い。
図表2は東京23区における2020年までの今後3年間に予定されている新規供給を、CBREが定義するビルグレード毎に集計したものである。中型ビルに相当するグレードBは今のところ、今後の新規供給の6%にとどまっている。
グレードBの2017年Q2の空室率は1.7%と2007年Q4(1.3%)以来の低水準にある。新規供給が限定的であることに鑑みて今後も空室率の大きな上昇は予想しにくい。そのため、大型ビルについては市況の軟化が予想されるのに対し、グレードBのキャッシュフローは今後も比較的安定的に推移することが予想される。
[図表2] 東京23区 3年間(2018年-2020年)のグレード別供給割合
大型ビルに比べて、賃料下落率は限定的
2-3.安定した賃料水準
新規供給の少なさに鑑み、今後の中型ビルの賃料の下落率は大型ビルに比べて限定的とみられる。
2018年から2020年にかけて、グレードAの毎年の新規供給床は過去平均の倍の水準であるのに対し、グレードBについては過去平均の5割にとどまる(図表3)。このためCBREの賃料予測では、グレードAの賃料はむこう3年程度で2017年Q2実績に比べて15%強の下落を予想しているに対し、グレードBの賃料は6%程度の下落にとどまるとみている。
なお、2017年Q2のグレードB賃料(21,000円/坪)とグレードA賃料(36,300円/坪)との格差は15,300円/坪。この開きに鑑みて、今後のグレードAの新規供給が、グレードBオフィスからのテナント流出を招くことも考えにくい。
[図表3]東京オフィス市場 グレード別の新規供給(年平均値の比較)
[図表4]東京オフィス市場 グレード別賃料予測