賃料調整が限定的な中型ビルの利回りは、安定的に推移
前回に引き続き、東京の売買市場における中型オフィスビルの投資対象としての現状を見ていきたい。
2-4.相対的に高い利回り
中型ビルは大型ビルを中心とするプライムオフィスに比べて利回りが高い。直近の取引事例などから、東京の主要アセットタイプ別の利回り水準は、現状では図表1のとおりと推定される。中型ビルの利回りは、オフィスやリテールのプライム物件に比べて50bpsあまり上回っていると推定される。
不動産市場に対する投資家の関心の高まりを背景に、全てのアセットタイプについて利回りは全般的に低下傾向が続いている。ただし今後、グレードAオフィスについては、新規供給の増加に鑑みて利回りの更なる低下余地は限定的で、上昇のリスクも考えられる。これに対し中型ビルの利回りは、賃料調整が限定的と予想されることや、市場が拡大基調にあるとみられることから、安定的に推移する可能性が高い。
[図表1]東京 主要アセットタイプ別利回り
2-5.流動性
不動産売買市場においても中型ビルの流動性は相対的に高いといえる。図表2は、2012年以降の取引について延床面積別の件数を集計したものである。全体の74%を延床面積2000坪未満のビルが占め、中型ビルに該当する延床面積2,000坪以上7,000坪未満の割合は17%で、大型ビル(延床面積7,000坪以上、9%)を上回っている。
さらに、各規模について投資家別の件数割合をみると、中型ビルを取得した投資家の分布は他の規模に比べて分散しており、多様な出口戦略を検討することが可能であることを示唆している。また、大型ビルが賃貸オフィスビルの全ストックに占める割合は棟数ベースで8%に過ぎないのに対し、中型ビルは18%を占める。投資家にとって選択肢の幅も大型ビルより広いといえる。
[図表2]東京23区 オフィス売買取引件数割合
オフィス投資全体の8割超が海外投資家
3.コアプラス投資の増加
今後、中型ビルへの投資の担い手として、海外投資家の存在も無視できない。2012年以降の海外投資家の投資実績件数を延床面積規模別でみると(図表3)、7,000坪未満のビルの取引が、海外投資家によるオフィス投資全体の8割を超える。こういった取引には、コアプラスとして投資されているものも含まれる。
CBREが年初におこなったアジア不動産投資家調査(図表4)によるとコアプラス投資を魅力的と考える投資家は増加傾向にあり、2017年の回答率は約2割を占めた。より回答率が高かったのは、「プライム/コア」や「バリューアッド」戦略である。
しかし、これらの投資機会が実際には限られていることや、今後の市況見通しに鑑みると、オフィスについては「コアプラス/優良なセカンダリー」への投資が結果として増加することは想像に難くない。今後は、クラウドファンディングや区分所有物件への投資などの形で個人投資家から資金流入も考えられ、中型オフィスの売買市場はさらに拡大すると予想される。
[図表3]東京23区 海外投資家によるオフィス売買の規模別件数割合
[図表4]アジア太平洋地域の投資家にとっての魅力的な投資戦略