「売上高」だけでなく「元の数字」にも注目する
次に着目するのは伸び率などの「変化」です。
業績が伸びている企業に対しては、よく「急成長」などという言葉が使われますが、「急」という言葉だけでは具体的にどの程度なのかはまったく分かりません。伸びている企業のことが話題に上ると、「この会社には勢いがある」「パワーがある」といった表現が飛び交います。
確かに、定性的に分析した結果、社内の雰囲気に勢いがある企業とそうでない企業に分かれるのは事実ですし、こうした定性的な情報も重要です。しかし、数字のない状態で、企業の勢いや元気さについて議論するのは少々勇み足でしょう。
業績が拡大している場合には、何%の成長なのかということが極めて重要です。さらに重要なのが、先ほど説明した絶対値との関係性です。
例えば、売上高が30%増というまさに急成長している企業があったとします。
30%という数字自体は確かにすばらしいものですが、重要なのは元の数字です。
売上高1億円の企業が30%成長しても、金額は3000万円にすぎません。しかし売上高が100億円ある企業が1%成長しただけでも、1億円の金額となります。片方は30%と驚異的な成長率で、もう片方は1%とほぼ横ばいですが、市場に与えるインパクトは後者の方が大きいかもしれません。
「増加」は分野によっても影響が異なる
また利益が何倍増という表現にも注意が必要です。
企業の利益の増加率は売上高を上回ることが普通です。
例えば売上高100億円、営業利益が5億円の会社があったとします。次の年、利益が3倍増の15億円になったという話を聞くと、すさまじい利益拡大とイメージする人がいるかもしれません。しかし、利益が15億円になった時のその会社の売上高は110億円程度かもしれません。売上高が1割増えただけですから、それほどの急成長とはいえないでしょう。
もともとの利益水準が低かった場合、売上高が1割増加すると利益が3倍になることは特に珍しいことではないのです。
また分野によっては、増加がもたらす影響が異なるので、この点にも注意が必要です。企業の利益が3倍になることはそれ自体に大きなインパクトがあります。2億円が3倍の6億円になれば、大きな違いであることは明白です。
しかし科学などの分野では、数字が10倍にならないと、大きなインパクトをもたらさないというケースが少なくありません。数字のケタ、つまり対数での分析が必要となる分野が一定数存在しているわけです。
このところ、築地市場の豊洲移転問題が議論されていますが、その中で「基準値の10倍」といったデータが話題になることがあります。ケースバイケースですが、10倍が大きな意味を持つ時と、お金の世界での2倍程度と同じ意味にしかならない時があります。倍数の大きさだけで判断してしまうのは危険です。